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とにかく、一度、ピピと会って話をしなくてはならない。
ピピはいつ館にくるのだろう。
私はピピを待った。
どんなに長くても、夏の終わりにまでは、きっと。
ある日、窓から外を覗いていると、屋敷の前に馬車が止まった。荷馬車ではない。お父さんの馬車だ。誰かを迎えに行っていたのだ。
もしかして、と期待を込めて見つめる。
降りてきた人影に、あ、と息を呑んだ。ピピだ。ピピが来た。
遠くからだったけど、久しぶりに見る姿はちっとも変わっていなかった。
ずっともやもやしていたのは本当だ。けれど、私は、ピピの顔を見て、すっかり嬉しくなってしまった。
その頃、私は、自分の部屋の鍵を、内側からこっそり開けられるようになっていた。
皆が寝静まったころ、ピピに会いに行こう。
そう思っていたけれど、その晩、館はずっと賑やかだった。
何を言っているのかはわからない。でも、いろんな人の声が、物音が、私の部屋にまで聞こえてくる。
ピピは何を思っているのだろう。無理をしていないだろうか。嬉しかったのもつかの間、すごく心配になった。
館から物音が消えた朝。
私は、鈴を服の中にしまった。この鈴にドラゴンが反応することも、ピピに話さなくてはならない。ピピはきっと喜ぶだろう。
そうっと部屋から出る。
淡い色の光が満ちる廊下を歩く。
客室を見たけれど、ピピはいなかった。食堂にもいない。もしかして、離れに泊ったのだろうか。
屋敷の外に出る。
ふわ、と風が吹く。
足元の草や、土からたちのぼる香りは静かだった。
その、夏の終わりを知らせる空気の中に、少し、焦げ臭い香りを感じた。
「──ピピ?」
離れに向かうまでもなかった。
ピピがいた。
館の柱に立てかけた木を燃やしていた。
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