真面目族とコミュ族

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 今はまだ、少数しかコミュ族として生きていく人間は少ないが、今後、真面目族の不満が高まり、爆発したら。 「そんなの、世界は崩壊にするに決まってるでしょ」  いくら口が達者でコミュニケーション能力に優れていて、交渉事に強いとはいっても、売るためのものがなくては生活どころか生きていくことさえ困難だ。 「実際、崩壊は既に起きているみたいだよ」 「私たちはコミュ族と袂を分かつ決断をした」  ある日、真面目族の代表がそんな宣言を下した。最近のコミュ族の不正に耐えきれなくなった結果の行動らしい。 「今後、私たち真面目族はコミュ族に一切、ものを提供することはありません」  それに反対したのは、コミュ族たちだ。彼らは真面目族に頼り切った生活をしていた。そのため、製造業などの一次、二次産業に対するノウハウはない。真面目族と縁を切れば、彼らには飢え死にという未来が待ち受けている。なんとしてでも、彼らは真面目族との和解にこぎつけなくてはならなかった。しかし、今までのコミュ族による真面目族に対する雑な対応により、彼らが和解することは無かった。  真面目族とコミュ族の住む場所は分かれている。どの地域でも、コミュ族が住む場所の周りに真面目族が住む地域が出来上がっていた。コミュ族が住む地域に畑や工場などの類は一切なく、マンションや物を売る店が立ち並ぶだけだ。  真面目族による宣言が下されてから、治安が一気に悪くなった。各地域の中央に住むコミュ族たちの間で暴動が起き始めていた。真面目族による品物の供給がない今、彼らは真面目族に取り入って、彼らと一緒に肉体労働に励むしかなかった。  しかし、そんなことは彼らのプライドが許さなかった。そこで何が起こったかというと、コミュ族の人間が真面目族の住む地域に移動するという現象が起きた。そして、彼らは自慢のコミュニケーション能力を駆使して、真面目族から様々なものを盗んでいった。  ただ、物を盗むだけなら被害は少ない方だ。ガラの悪いコミュ族の人間となると、真面目族の家に押し入ったり、彼らを傷つけたりするなどの強盗傷害事件を起こすものもいた。  真面目族がそれを黙って見過ごせるわけがなく、次第に真面目族はコミュ族だと知ると、彼らを見境なしに暴行し始めた。  こうして世界は混沌に満ちていく。争いは続いた。 「いやあ、あの時はいろいろ大変だったねえ」 「だよねえ。私たち、一時は正体がばれたかもって、焦ったもん」 『アハハハハ』  私たちは以前、駅前で食べたカフェに再度訪れて食事をしていた。あれからどれくらい経ったのだろうか。100年か200年、もしかしたらもっと経っているかもしれない。とはいえ、私たちに時間の感覚はない。しかし、時代が変わり店が変わっても、ここにカフェは存在していた。 「それにしても、あれは受けたよねえ」 「そもそも、肉体労働で製造する彼らと、口先だけで生活する彼らという、二つの人種に分けて生きようとした最初の人間がいけなかった」 「でもさ、役割分担されていて、私は結構いいと思ったけどな。この社会が終わりを告げた原因は」  真面目族に対しての感謝が足りなかった。  口先だけで生きてきた彼らはもっと、真面目族を丁重に扱うべきだった。目先の利益にくらんで彼らをないがしろにしたのが間違いだった。人間は口だけでは生きていけないことをもっと心に刻んでおくべきだった。 「オマタセシマシタ」  店員が注文した料理を運んできた。 「ありがとう」  テーブルに料理を運んだ店員は礼を言わずに、そのままその場を離れていく。不愛想に見えるが、機械なので仕方ない。 「これこれ、また食べたいなあと思っていたんだよねえ」  友達はモンブランを口に入れて、幸せとつぶやいている。私もスイートポテトを口に入れて味をかみしめる。  今の季節は夏真っ盛りで、栗もサツマイモも手に入らない。 「時代の流れって恐ろしいよねえ。だってこれ、完全に見た目も味もモンブランでしょ」 「私のスイートポテトも本物と見紛うほどの出来だ」  現在は、文明が発達して季節関係なく、食べたいものがいつでも食べられるようになった。そして、人間は歴史を繰り返す。 「今度は何だっけ。上級国民と下級国民だっけ。人間って自分たちを二分する位置付けが好きだよねえ」 「いつまでそれが続くのか見ものだね」  私たちは笑いながら、今日も彼らの行末を彼らの生活に溶け込み、見守るだけだ。
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