真面目族とコミュ族

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「真面目に生きなさい」  これは真面目族が幼いころからたたき込まれる言葉だ。私はこの言葉に従い、いままで生きてきた。  人間は二つの人種から成り立っている。肌や髪、瞳の色などの容姿の違い、言葉の違いはあれど、この二つの区別に比べたら、それらの違いはきょうだいみたいなものだ。  私が属する「真面目族」とは基本的に製造業を担う人々のことだ。私たちが作ったものを売ってくれるのが、もう一つの人種「コミュ族」である。  コミュ族は私たちが作ったものを彼らの得意とするコミュニケーション能力によって、たくさんの人々に売りつける。買うのは真面目族、コミュ族両方になる。お互いに協力して長い間、生活してきた。  しかし、最近ではコミュ族による不正が相次いで発覚し、その協力が成り立たなくなる状況が続いている。 「またコミュ族の人間が不正を行ったようだ。今度は魚の産地の改ざん。我々真面目族が取ってきた魚を嘘の産地でごまかして売ろうなんて、とんだ嘘つき野郎どもだ」 「俺達が丹精込めて作り上げた新種の野菜の種が盗まれた。あの時、俺のそばにいたのは買い付けに来たコミュ族の人間だった。あの野郎が盗んでいったんだ!薄情者め」 「俺の作った作品が転売されていた!家に飾るからっていうから、非売品のところをわざわざ売ってやったのに。裏切られた気分だ」  真面目族は、名前の通り真面目に生きることを信念にしている。何事にも一生懸命に取り組み、相応の対価以上のものは受け取らず、質素に生きてきた。私の両親だってその祖先だって、今までそれで不自由なく暮らしてきた。それが崩れ始めている。  テレビやスマホでは連日、この手のコミュ族による不正の事件が相次いで報道されていた。 「真面目に生きているのが馬鹿らしくなってくるね」 「そうはいっても、私たちはコミュ族みたいに口がうまくないから、他にどう生きろっていうわけ?私たちが彼らに勝てるわけないでしょ」 「確かにそれはそうだけど……。でもさ、私たちが真面目に一生懸命に作ったものを安く買い叩かれたり、嘘の情報で売られたりしているのを見ると嫌になるよ」 「そうだよねえ」  私たちは、お互いに顔を見合わせてため息を吐く。私たちがいるのは、駅の近くにできたオシャレなカフェだ。休日に高校時代からの友達とおやつを楽しんでいた。 「お待たせしました」  店員が注文した料理を運んできた。季節は秋。さつまいもや栗などを使った限定メニューが目白押しで、私たちもそれにあやかって季節限定メニューを注文していた。私がスイートポテトで、友達はモンブラン。 「いただきます」  重苦しい話題はここでいったん中断する。真面目族とコミュ族のいざこざは昔からあったのだ。きっと、今回もうまく互いが譲歩してうまくやっていくだろう。 「おいしいね。さすが、真面目族が取ってきた栗なだけあるね」 「サツマイモも丹精込めて作られた感があるかも。めちゃくちゃ甘くてほっこりしておいしい」  メニューの説明に書かれたことをうのみにして、私たちは互いの料理の感想を言い合った。もしそれらの説明が嘘で、コミュ族が儲けるためにでっち上げたもので、実際に使われているのが売れ残りの安いものだったのなら。  私たち真面目族がそれに気づくことができるだろうか。 「そういえば最近、真面目族からコミュ族に変更する人が増加してるらしいよ」 「変更ってそんなに簡単にできたっけ?」  生まれながらに真面目族、コミュ族と決められていて、大抵の人間はその枠からはみ出すことは無い。人種の変更は難しいと聞いたことがある。 「なんでも、コミュ族が楽してお金を稼いでいるのを見て、真面目に働くのが嫌になったとかなんとか」 「ああ、それはたまに思うよね。なんで汗水働いてものを作った私たちより、彼らの方が給料が高いのかって」  そう、真面目族とコミュ族の間には、性格だけでなく大きな違いがあった。汗水流してものを作っている真面目族よりも、それを売っているコミュ族の方が給料がよかった。どうして、口だけの人間が自分たちより給料が高いのか、私も常々思っていた。その疑問や不満がついに爆発してしまった人がいるのだろう。 「私もそれは思ったことがある。でもさ、生まれながらに持っている人種って、なかなか捨てられないよねえ。だから、本当に変更をする人もいるんだけど、なんちゃって変更みたいなことをする人も増えているみたいだよ」  友達が話してくれた内容は、私からしたら理に適っているように見えた。とはいえ、そのままそんな生活をしていくのは危険な気がした。  コミュ族の下で働く。  肉体労働はせずに、口先だけで仕事をする彼らの仲間にしてもらおうというわけだ。彼らの下で学んで、いずれ本当に人種を変更すれば、一人前のコミュ族になることができる。しかし、そんなことがまかり通ればどうなるのか。 「もし、私たち真面目族が生産を止めて全員がコミュ族になったら、この世界はどうなるんだろうね」
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