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episode.1
ひかりと斗哉は幼馴染だった。
ひかりと斗哉は物心ついた時から一緒に過ごしており、よく公園で遊んだりしていた。時折喧嘩もしたが、すぐに仲直りできた。思い出は、全て楽しいものばかりだ。
高校は離れてしまったが、
『小さい頃からずっと、ひかりのことが好きでした。俺と付き合ってください』
斗哉の長年の片想いが実り、二人は結ばれたのだった。
「ねえねえ。今からみんなでカラオケ行くんだけど、ひかりも来ない?」
放課後、ひかりの友達である優がカラオケに行かないかと誘ってきた。優とは中学生の時に仲良くなり、高校も一緒になった。
「ごめん、行きたい気持ちは山々だけど……今日デートの約束があって」
「あ、例の幼馴染?いいじゃんいいじゃん、楽しんできてね」
優とその周りにいた人たちが、にこにこしながらひかりのことを見ていた。
「ありがとう。優たちも、カラオケ楽しんでね」
「ありがとう、今度ひかりも一緒に行こうね」
優たちは「何歌う?」と楽しげに話しながら教室を去っていった。
ひかりはというと、斗哉との初デートにドキドキしながらも、胸を踊らせていた。
(楽しみだな、デート)
このときのひかりはとても幸せそうだったと思う。
これから訪れようとしている悲劇など、知るわけもなく。
ひかりはここ最近物忘れが酷くなっていきていた。
些細なことから重要なことまで、覚えていようと思っても忘れてしまうことが増えてきていた。母親に相談しても「ただ忘れっぽいだけじゃないの」と言われて終わりだった。それより先はなにもなかった。でも、『忘れっぽい』で済ませていいような気がしなかった。昨日何食べたの、って聞かれても何一つ思い出せないときもある。
いつか、斗哉のことも忘れてしまうのではないか。
ひかりはそんな気がしてとても怖かった。このままだと、斗哉以外にも母親、友達などの記憶も全て無くなってしまいそうな勢いだった。斗哉との思い出、斗哉自身のこと。母親との思い出、母親自身のこと。友達との思い出、友達自身のこと。…。沢山の事を忘れてしまうことが、ひかりは何よりも怖かった。
そしてひかりは、どうすれば忘れずに覚えていられるかを考えるようになった。まずは、無難にメモ用紙に覚えておきたい事を書き起こしてみようと思った。書いている最中、懐かしい思い出に思わず笑みが零れたが、いつかこれも忘れてしまうんだなと思うと笑みがひいてしまう。
これからも思い出を作っていこうと思ってたのに。
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