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①
「いいバイク、乗ってるね」
美しい月の光が照らす、秋の夜。そう声をかけてきた女に、見覚えがあった。時々利用している、地元の小さなライブハウス。そこのオーナーの娘だと記憶していた。
「まぁ、他に金を使うこともないから」
互いに顔見知りではあったが、話をしたのは今日が初めてだった。
「私もバイク、趣味なんだ。今度、一緒にどう?」
女はそう言うと、やにわにスマホを取り出した。その姿を、睨むような目つきで見た。
「ツーリングに行こう」
それでも女は怯むことなく、オレを誘った。どうしてこの女は、オレなんかを誘うのか。そう思いながらもスマホを取り出すと、連絡先を交換した。
「ありがとう。また連絡するから」
そこで初めて、女の名を美音だと知った。
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