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美音は父親の仕事を手伝いながら、ボイストレーナーとして音楽教室で指導をしていると、一服しながら教えてくれた。
「声の仕事をしているなら、ソレやめた方がよくね?」
あごでたばこを指すと、小さく「ああ」と呟いた。
「いつも吸っているわけじゃないよ。ツーリングすると、なんだか吸いたくなってね」
ストレートの黒髪、長身でスレンダーな身体。黒のバイクスーツなんか着せたらエロくてたまらないだろう。カジュアルな服装で良かったと思うくらい、色気のある女だ。美音がツーリングに誘う意図はわからないけれど、オレを恋愛対象外だと思っていることくらいはわかった。
「さぁ、行きましょう」
携帯灰皿にたばこの火をもみ消すと、愛車に跨り、ヘルメットを被った。オレもそれに続くと、エンジンをかけ、夜の帳が下りる街に向かって走り出した。
美音はただ、ツーリング仲間を探していただけかもしれない。SNSで知り合った、得体の知れない野郎とのツーリングより、趣味で仕事仲間とライブハウスで演奏しているオレの方がいくらかマシだと思ったのだろう。バイク乗りなら誰でも良くて、たまたま駐輪場にバイクを停めていたオレに声をかけたに違いなかった。そう思わないと、変な気を起こしそうな自分がいて、怖くもあった。
もう、恋愛はしたくない。恋人なんかいらない。傷つけるのも、傷つけられるのも、辛いから。
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