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祖父の手紙
お葬式が終わり、親族総出で遺品整理をしていると
茶封筒が本の間に挟まっているのに気がついた。
なんだろ、これ。
気になって開けてみる。
家族へ、と書かれている。
どうやら手紙のようだ。
一瞬読むのを迷ったが好奇心が勝り、
文章を目で追いかける。
家族へ
今まで迷惑をかけてすまなかった。
俺はきっともう長くないだろう。
今まで、俺は自分勝手なやつだった。
生意気だった。
苦しめて、本当に申し訳ない。
入院して初めて妻の大切さに気づいた。
縁を切って初めて子供の大切さに気づいた。
孫の存在のありがたさも。
だけど、今更謝る度胸は俺には無かった。
どうせ死ぬなら、最後まで悪人として
死にたかったんだ。
そうすれば、お前たちは俺の死を
悲しんだりしないだろう?
もう、お前たちを苦しめたくなかった。
だから湿っぽく泣くなよ?
今まで、言えなかったが俺はお前たちのことが
大好きだ。
ありがとう。
こんなじじいになるなよ。
安西 治
おじいちゃんのバカ。
もっと早くに言ってくれたら良かったのに。
「ちょっと、どうしたの?」
泣いている私を心配そうに見つめる皆。
わたしは黙って母に手紙を渡した。
みんな作業を止めて母の手元を覗き込む。
しばらくすると、母の涙は
父、祖母、叔父、真澄お姉ちゃんに伝染した。
「父さん……ほんとバカね。」
泣きながら笑う母。
だけど、その顔は明るかった。
祖母も愛おしそうに手紙の文字をなぞった。
「おじいちゃん、おじいちゃんは
嫌われ者じゃなかったよ。だからみんな泣いてるの」
おじいちゃん。
ごめんね、今まで
みんなも本当はおじいちゃんのことが
大好きだよ。
わたしが長い人生を終えて
そっちに行ったら、わたしのこと抱きしめてくれる?
わたしの瞳から温かい涙がこぼれ落ちた。
(終わり)
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