戴冠式 〜従者の場合〜

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戴冠式 〜従者の場合〜

神々しく光るのは本物の神様だからなのか、それとも『ゴット・アーシ』と揶揄されているからなのか。はたまた目を細めてしまうのは、成長した王子を感慨深く思うからなのかもしれない。 輝きを放ち続けるそれは同じく太陽の光を反射させた髪色を持つ王子、スィース・ペティット様。幼い頃から彼を慕い、この国を慕って来た私にとっては何やら込み上げてくるものがある。 きっとこれは、昨晩のパーティで飲んだウィスキーではないと思いたい。 「ここに、スィース・ペティットを勇者に任命することを宣言する」 わぁっと盛り上がる歓声と拍手の音により、満足そうに微笑んでいる国王のアーシ・ペティット様。満足そうに、とは言っても彼の後ろに並んで立っている大臣らは死んだ魚のような目をしているのは私の気のせい。 どの国でもでも大体は国王様に忠誠を誓って動いているはずなのだから、まさか徹夜で働いている訳がない。  華々しい王子、もとい勇者様の門出でそのような表情をしたら、また国王様の虫の居所が悪くなってしまう。冷や汗を背中に垂らしながらも頬を引きつらせて笑みを作った。 鳴り止まぬ拍手は国王様が手を挙げたことにより、徐々に静けさを取り戻す。緊張感が未だ漂う中、再度口を開いたのは国王様だった。 「皆の者、我が息子スィース・ペティットの戴冠式に来て頂き心から感謝をする。また、この案を一緒に考えてくれた大臣にも深く感謝する」 背後にいる大臣達へ振り返り、深々と一礼をした。ぼうっとしていた彼らはハッとし、同じように頭を下げる。それを見届けたアーシ様は直ぐに国民の方へと振り返ったのだが、その瞬間に一人大臣が倒れたのを目撃。 目を見開いてしまったのだが、ここまで気を良くしている彼に水を差したくないからないのだろう。袖に隠れていた医者がすぐさま駆けつけ、運ばれて行った。何事もなく進んでいくこの戴冠式はいつ終わるのだろうか。 「さて、ここで勇者スィース・ペティットと共に旅へ出て貰う従者を任命する。まずは、リヤン・ハイムーン。我が息子とは幼少期からの友人で、今でも魔法学を学んでいるスィースをサポートしている」 手の平を一人の青年の方向へ向けた国王様は誇らしそうにしている。スィース様の数少ない友人と呼べるうちの一人だ。人当たりが良いと言われている彼は、この宮殿の中では魔導師として魔法の指導に当たっている。 一族でペティット王国に仕えているのもあって今では高い地位まで来ているが、そんな地位に甘んじることはない。私のような従者にも優しく接してくれる素晴らしい人格の持ち主だ。 そんな彼は今指名されたことを聞いたようで、大変驚いているらしい。目を見開き、一瞬ふらっと体が倒れそうになっていたのだが、とっさに後ろにいたカズーキ様が支えていた。 「か、かしこまりました。微力ながら、スィース様の支えになれるよう努力致します」 ハッと目を覚ましたリヤン様はすぐに国王様の前に出て跪き、忠誠を誓う言葉を続けた。一瞬、気絶したかのように見えたのだが気のせいだろう。立派な魔導師である彼がこのような神聖な場所でする訳がない。 そうだ、私の見間違いに違いない。リヤン様は静かに立ち上がって、すぐに自分が立っていた場所へ戻った。 自分の思い込みを何処か遠くの領土に飛ばすのを頭の中で想像しつつ、続けて話し始める国王様へと視線を向けた。 「そして、もう一人。カズーキ・ユエンを同じく勇者をサポートするための従者として任命する」 カズーキ・ユエン様。聞きなれない珍しい名前なのは、極東の国から来た母親が名付けたらしい。この国では珍しくても、極東の国ではよくある名前だとか。彼はリヤン様とは正反対で、かなり強気の騎士団長。 すれ違ったことはあるが、特に何か言われることはない。ただ、身分と言うものがお嫌いのようで部下やそれこそスィース様にも遠慮することはない。良くも悪くも目立っている方なので、下の人間からは好かれ、重鎮や大臣のような上の者には嫌われているだとか。 そんな彼が任命されたのを聞いて視線を動かすと、そこにはリヤン様とカズーキ様が何やら戯れているらしい。ガシャン、ガシャンと聞こえる鎧の音はリヤン様に抑えられて何とか立ち止まっているカズーキ様。 二人で何か言い合いをしているようだが、何か問題でもあったのだろうか。いつまで経っても前に出てこないのを見て、国王様も周囲の人間も頭を傾げていると「チッ」と舌打ちが聞こえた気がした。 「何か、問題でもあったのか?」 「い、いえ! 何もありません、陛下。……ほら、早く行けよ」 取り繕うように話したのはリヤン様。笑みを浮かべた彼は最後の方に小さく呟き、カズーキ様の腕を突いていた。ガシャン、ガシャン、と鎧が動く音が聞こえる方向をここにいる全員の視線が向く。 ツンとした雰囲気を持っている彼は、かなりの大柄なのでやはり怖い。それに加えて目も若干つり目の三白眼で睨まれた日には悪夢を見そうだ。 重い鎧を身に纏っている彼は先程リヤン様がいた所で立ち止まり、跪く。この国では珍しい黒髪の持ち主はかなり不機嫌そうに見えるが、目つきが悪いからだと信じたい。 「……かしこまりました。微力ながら、勇者様のお力になれますよう努力致します」 「そうかそうか。我が息子のために二人とも頼んだぞ」 国王様のお言葉の後、この場にいる全員が拍手して三人を、いや、国王様を讃えていた。私も同じように手を合わせて音を出す。しばらくは拍手の渦に巻き込まれたかのように鳴り止まないが、跪いていたカズーキ様とリヤン様は早々に何処かへ行ってしまったようだ。 まぁ、それも仕方ない。だってこれから、魔王退治に行くのだから。きっと色々準備することやこれからのことについて話し合うに違いない。 私もいつか、彼らのようになれたらなぁ。
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