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旅の終わり 〜メイドの場合〜
魔王が倒されてから数ヶ月が経ちました。
立派に役目を果たした勇者様であられるスィース・ペティット様、国の中でも大変優秀な剣術を持つカズーキ・ユエン様、王家長年支えている一家のリヤン・ハイムーン様が帰られた時には感激いたしました。
無事に帰還されたことはもちろんのこと、この国だけでなく他の国の脅威でもあった魔王を倒したことによる功績。これ以上に素晴らしいことがあるでしょうか。国全体で大々的に表彰式を行うと聞いた時にはお目にかかれるのを心の底から楽しみにしていました。
「これより、勇者スィース・ペティットとその一行による表彰式を行う。三人とも、前へ」
国王の息子に相応しい格好をしているスィース様、立派な甲冑を身につけているカズーキ様、美しいシルクで作られたローブを着ているリヤン様がアーシ様の前に出ました。
三人とも堂々としており、外から入ってくる太陽の光に反射して全てが輝いて見えます。じっと真っ直ぐに目を細めて見つめているカズーキ様の姿は、まるで鷹のようです。凛々しい顔をしています。
「よくやった。魔王を倒してくれたこと、感謝する」
「ありがとうございます」
「カズーキくんも、リヤンくんも、スィースに力を貸してくれたことに心から感謝する」
「当然のことをしたまでです」
「そうかそうか。また後日褒美を渡すからな」
ありがとうございます、と深々と頭を下げている二人。三人とも小さい時からの幼馴染だと聞きました。互いに切磋琢磨し続け、こうして魔王を倒す仲間として偉業を成し遂げたと言うこと。なんて素晴らしいのでしょうか。
国王様の褒美が後日だと聞いたリヤン様から何やら「チッ」と音が聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。誰にでも平等に優しくしてくれるあのリヤン様がそんなことをするわけがございません。
私の耳が少し悪くなってしまったのでしょう。明日にでもお休みをいただいてお医者様のところへ行かねばなりませんね。
「スィース、お前は何が欲しい。褒美としてなら何でもくれてやろう」
「……何もいらない」
「何?」
「僕は、何もいらない」
会場内がざわつきました。こんなにも立派なことを成し遂げたと言うのに、何もいらないなんてことがあるでしょうか。私も驚いて思わず「まぁ!」と声を出してしまいました。私だけではなく、周囲の人々も「どうして?」とか「なぜだ」と不思議そうにしています。
私たちと同じく動揺しているアーシ様。表情に出やすい彼は何も言葉にできないようで、口をポカンと開けています。
「その代わり、みんなが平和に幸せに暮らせるようにしたい。そのために、魔王を倒したのです」
「なんと! 素晴らしい。そんな素晴らしいことを願うとは、さすが私の息子だ」
アーシ様の拍手からどんどん感染していき、周囲の人々も「素晴らしい!」や「さすがです!」と言った言葉を述べながら手を叩いています。私も周りに流されるように手を叩き、感極まって泣きそうになりました。
スィース様はいつの間にこんなにも素晴らしい人格を育てたのでしょうか。やはりこれも、アーシ様と亡き王妃様の教育の賜物でしょう。
「カズーキくん、リヤンくん。君たちは、それでもいいだろうか」
「はい。小さい時からの付き合いですから」
「俺もです。全て、スィースに任せます」
少し呆れたように言う二人のお姿はとても素敵でした。身分が違いながらも一緒に育ち、スィース様の側にい続ける。なんて素敵なのでしょうか。こんなにも一途に仕える姿は健気でなりません。
私もいつか、こんな素敵な人柄になれるように努力しなければなりませんね。ぽろっと溢れた涙を拭くと、「決めたぞ」と何かを決意したらしいアーシ様。大きな声で「みんな、聞いてくれ!」と叫びました。
「この素晴らしい功績を残してくれた彼らと、国民の幸せを考えるスィースに最高の褒美を与える。スィース。お前に、新国王の座を譲ろう」
「い、いいのですか。僕が、その地位についても」
「もちろんだ。国民のことを思い、国民のために行動できるお前に全てを託す。素晴らしい手腕を期待しているぞ、息子よ」
わぁっとまばらになっていた拍手が再び盛り上がり、会場の中に響きわたりました。割れんばかりの拍手にニコニコと微笑みを絶やさないアーシ様。
この場で王位を継承したことにも驚きを隠せませんでしたが、きっと心の優しいスィース様なら大丈夫でしょう。いくつか不穏な噂も聞きましたが、きっと大丈夫なはずです。
不安定な政治もきっと良い方向へ行き、このまま幸せに暮らせるに違いありません。
めでたし、めでたし。
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