あるべき真の結末 〜スィース・ペティットの場合〜

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あるべき真の結末 〜スィース・ペティットの場合〜

あぁ、やっと終わった。 長きに渡るこの戦いも、これでやっと終わるのだ。 バカな王子と揶揄され続け、一体何十年経ったのだろうか。確かに初めて測定をした時にはショックを受けた。あの聡明なお母様の血を引いているのにも関わらず、俺の知能がこんなにも低いとは思ってもいなかった。 だからこそ俺は、血の滲むような努力をした。周りに笑われても、震える手をどうにかして動かした。文字通り、必死だったのだ。 「スィース様、お疲れ様です」 「あぁ。すまないな、時間がかかってしまった」 「いえ。ご無事で何よりです。それで、これからどうされますか?」 「そうだな。手始めに、お父様……いや、元国王を追放してくれ」 「かしこまりました」 深々と頭を下げているこいつは、俺が生まれた時からずっと一緒にいる部下の一人。俺だけの指示に従ってくれる、数少ないお母様が残してくれた財産。誰にも見つからないように行動している彼が何者かは分からない。 しかし、まだお母様が行方不明なる前に話していた『困った時は、彼を頼りなさい』と言われた記憶を頼りに彼を信頼している。 それにしても、まさか自分の母親が魔王になっているとは思ってもいなかった。 魔王城に入った時は確かに驚いた。死んだと聞いたお母様が生きていたことではない。生きているとは思っていたのだ。チーナが必死に集めた情報により、生きている可能性がかなり高いと分かった時には、心底ホッとした。そして、涙が溢れ出た。 その場には俺とチーナしかいなかったのが唯一の救い。父親の前でも泣いたことがないのに。不思議で不思議でたまらなかった。きっと、心のどこかで母親を追い求めていたのだろう。 会いたいと願う一心で頑張った結果、会えたのだから。 「おい、スィース」 「あ、カズーキ。リヤンも一緒なのか。何かあったか?」 「俺らは何をすればいい?」 「特に何もないよ。先に休んでてくれて……」 「俺らには隠し事しない約束、だろ?」 いつもと異なる話し方をしていても何も言わない二人。それもそのはず、彼らはこの旅が始まる前に俺の計画を知っていたのだ。十数年以上前。俺が初めて魔力測定を行って予想外の数値を叩き出した時。俺は、二人に話した。 俺の、数十年に渡るこの復讐劇を。 計画のために必要なことは何でもした。自分の頭が悪いと思わせておけば、全てが上手くいくと予想したのだ。予想通り、俺をバカだと思い込んだ元国王は疑わなかった。確かに何度か心が折れかけた。その度に二人は憎まれ口を叩きながら励ましてくれた。どれだけ二人の存在に救われたことか。 「……でも、お前らを巻き込むわけには」 「何言っているんだよ。死ぬまで俺らは一緒なんだよ」 ドンっと俺の胸を叩いてくるカズーキ。同じように「ま、これも宿命ってやつだな」と笑っているリヤン。ふふっと笑っている二人。そうか、そうだったのか。俺は、思っていたよりもこいつらのことが大好きらしい。だって、そうだろう? そうでなきゃ、この頬を流れる涙の意味が説明できないからな。 「ありがとう、二人とも」 「おうよ。にしても、アーシ様の警戒心やべぇな。普通、自分の息子に監視の目をつけさせるか?」 「それほどまでにスィースが強敵ってことだろ。一番の敵は身近にいるって言うしな」 「まぁ、さすがに魔王城の中までは入って来れなかったようだけど。ざまあみろ!」 ははは、と三人で笑った。初めて監視に気がついたのはリヤン。俺たち以外のところから微かに魔力を感じると言っていた。それは魔物が周りにいるからでは、と思っていたのだがどうやら違ったらしい。 監視役として凄腕のスパイらしき人間を雇ったとか。どこまでも用心深いことだ。自分が一番大事で、一番可愛いのだろうと子供ながらに呆れたことを思い出した。 「それで、国王様よ。俺らの初めての任務は何だ?」 「そうだぞ。隠し事は無しなんだから、どんな汚れ役でもするからな」 真っ直ぐな目で二人は見つめてきた。毒を食らわば皿まで、とはよく言ったものだ。 「カズーキ・ユエン、リヤン・ハイムーン。元国王、もといアーシ・ペティットを暗殺せよ」 「かしこまりました。国王様」 「この命にかけてでも、任務を遂行いたします」 誰もいない、誰も見ていない廊下で部下は片膝をつき、深々と頭を下げた。 終わり。
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