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ズパンっと何かを叩いた音がした。
しかも、かなり激しい叩き方だと音から伺える。音のする方を見ると、ちょうど僕の死角になっていることもなりカズーキが何かを振りかざしているのだけは分かった。
「え、カズーキ、何してんだ?」
「え、教育的指導だけど? 言うこと聞かない家畜は上下関係を植え付けさせろって家訓だからさ」
ね、と言ってどこから出してきたのか分からない鞭を振り翳していた。あれだけ暴れていた馬も大人しくというか、しおらしくなってきた気がする。心なしか「ヒヒン……」と悲しく泣いている……じゃなかった、鳴いている気がして心が痛む。
やっとの思いでしがみついていたスィースは半泣きだったようで、鼻水を垂らしながら「カズーキィ、ありがとうよぉ」としがみついていた。
「きったね! 鼻水つけるな!」と足にしがみつく勇者を振り払うのを見て笑っていると、ドンっと何かが落ちてきた音が。それと同時に燦々と降り注いでいた太陽が消え、日影ができた。
「うげ。このタイミングで来るかぁ?」
そこには、ぷるんとみずみずしく跳ねている大きな大きな体があった。誰もが一度は見たことがあるだろう、魔物。
「スライムだ!」
「いや、何で嬉しそうなんだよ」
いつの間に立ち上がったのか、スィースは目をキラキラさせていた。僕たちよりも一回りも二回りも大きい体をしているスライムは、どこが目なのだろうか。というか、どうしたらこんなにも体が大きくなれるのだろう。
どうするか相談しようとカズーキを探したのだが、いない。名前を呼ぶと、馬三匹と一緒に数キロ先離れたところにいた。面倒くさそうな顔をしていた彼は早々に戦線離脱しているようだ。
「おい、カズーキ!」
「いやぁ、俺はパス! どーせスィースがやりたがるから任せようぜ!」
そんなに爽やかな笑顔で言うんじゃない。サポートするのはこっちなのだが、と声に出して言いそうになったのだがどうにかして飲み込んだ。嫌いな食べ物を飲み込むのと同じ感覚だよな、こう言うのって。
とりあえず魔法で倒した方が得策だろう。懐に入れていた杖を取り出して呪文を唱えようとした時。
「リヤン、こいつめっちゃ強いぞ!」
「おっ前、何してるんだよ!」
僕が目を離した隙に動いたのか、一所懸命スライムに向かって剣を刺していた。本当にあいつは何を考えているんだ。人の話を聞かないにも程があるのでは?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。ぷよんぷよん動かしている間に魔法を発動させよう。強めの風を巻き起こすために呪文を唱えていると、ふと国王様の話を思い出した。
あの国王様でもやはり人の親というのか、何というのか。正直これを聞いて唖然とした。
『あくまでもこれはスィースが中心となっているから、なるべく彼に手柄を譲って欲しい』
一瞬、こいつの頭の中はどうなっているのだろうかと真面目に悩んだ。でもすぐにやめた。余計なことを考えることほど無駄なことはない。国王の無駄に伸びたヒゲを引っ張ってやろうかなんて思っていない。断じて思っていないのだ。
「スィース! そいつの弱点は火だ! 魔法を使って火を出せ!」
「え? 何? 木?」
「いや、火! 学校で習っただろう! 思い出せ!」
「分かった! えーっと、確かスライムは水でできているから……これだ!」
魔法陣が出たと思ったら、上から降ってきたのはまさかの水。大量の水が降ってきたのだ。
「おっ前、何してるんだ! さっき俺、火だって言ったろ!」
「え、そうだっけ? って、うわ! なんかめっちゃ大きくなってる!」
「だろうなぁ! そりゃ水が大好きなスライムに大量に水をあげたもんなぁ!」
何だろう、お腹の下らへんがキリキリしてくる。一生懸命に思い出したのは偉いよ、うん。でもな、お前が頑張ったことによりまぁまぁピンチなの分かるかなぁ。
懸命に刺していた剣を全て飲み込まれてしまったようで、慌ててこちらへと逃げてきた。勇者って、何なんだろうな。
「ど、どどどどうしよう! 俺、剣盗られた!」
「見ればわかるわ! ほら、俺のを貸してやるから頑張れよ。お前、力と体力だけはあるんだからさ」
「分かった! やってみる!」
世のお母さんお父さん方。きっと、子供の初めてのおつかいを見守る時ってこんな気持ちなんでしょうね。産んだ覚えのない育てた覚えのない子供が成長している姿を見て涙を流している俺は立派な親になったのでしょうか。
懸命に自分の身長の半分ほどある剣を振り回していた。剣術はいまいちなのだが、体力と力は平均以上ある。一般人ではそう簡単に勝てることはない。
切っても切ってもなかなか倒せないあたり、まだ弱点を思い出していないのだろう。仕方ない。ほんの少しだけ力を貸せばどうにかできる……はずだ。
「あ! 倒せた! 倒せたよ、リヤン!」
「そうだな、良かったな。お前のお陰で俺も助かったよ」
「いーや、お前のお陰だよ! ありがとうな!」
全く、こんなことを軽く言ってくれるのだから憎めない。「はいはい」と手を振ると、元気よく振りかえしてきた。退治したスライムは弾けて消えたようで、その跡には何やらキラキラ輝いているものがあった。
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