始まりの旅 〜リヤン・ハイムーンの場合〜

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「あれ、金貨か?」 「お前、今更来たのかよ。まぁ、そうみたいだな。あいつらがかき集めてたのか?」 「スライムが? あいつら、そこまで脳みそねぇだろ」 「まぁ、それもそうか」  一人で喜んでいるスィースを目に入れないように横を通り過ぎ、地面に落ちている金貨の元へ。いつの間に来たのか分からないカズーキは不思議そうにじっと見つめていた。 彼の言う通り、スライムは魔物でもかなり低級と言われているので自身で何かを考えて動くことはないと言われている。確かに例外はあるかもしれないが、そもそも王国の近くでスライム自体がいあるのが珍しい。学校で習ったことだけでなく繰り返し読んだ書物を頭の中で広げた。 「……やっぱりおかしいな。そもそもこの金貨はどこから手に入れて……」 「あぁ! も、もしかして、勇者御一行様ですか!」 「え?」  大きな声が先を見ると、年老いた一人の男性がいた。こちらを見て驚いているようだが、ここら辺に住んでいる人だろうか。 年老いたと言っても五十前半くらいの見た目だが、着ている服がボロボロだと言うこともあり、かなり老けて見える。 「あの、どちら様で?」 「し、失礼致しました。私はここの近くに住んでいるムムと申します。勇者御一行が出発したと聞いてここら辺を見ていたのですが、少し助けて頂きたく……って、そ、それは!」 ペラペラと話しているムムと名乗る男性に圧倒されていると、地面に落ちている金貨を指差した。金貨とムムを交互に見ると、「ど、どこでそれを!」と声を大きくして目を見開いている。 「これですか? 先ほど巨大スライムを倒したらこれが出てきたのですが……もしかして、持ち主の方?」 「そ、そうです! 一ヶ月前ほど、いきなりスライムたちに襲われてこれを持っていかれて……なぜこんなことをしたのか分からないのですが、お金が尽きて生きるのにも一苦労していたところなんです」 なるほど、と一人で納得する。彼が歳以上に老けて見えるのは、汚れている服装とガリガリに痩せ細った腕と足が見えているからのようだ。今も立っているのがやっとのようで、フラフラとこちらへ近づいてきていた。 すると、小さな石につまずいて足をもつれさせた。咄嗟に魔法を使おうとしたのだが、その必要はなかったようだ。 「大丈夫か!」 「あ、す、スィース王子……申し訳ありません、王子にこんなことをさせるなんて……」 「いや、今は勇者だ。自分の国の民を守るただの人間だ。謝るんじゃない」  ムムの体を抱きかかえるようにして守ったのはスィース。がっしり掴んでいるようだが、宝物を扱うように優しく立たせた。どうにかして生きているこの状況まで追い込まれていたのか。 裕福だと言われているこの国でこんなことが起きるなんて、滅多にないはず。物資が不足している話も聞いていない。一体、俺たちが知らないところで何が起きているのか。 「カズーキ」 「あーはいはい。分かってるよ。これでいいか?」 「あぁ、ありがとう。ムムさん、こんなことになっているとは知らず、申し訳なかった。これはほんのばかりだが、受け取ってくれ」 カズーキから袋を受け取ったスィースは自分の懐から出した袋の中身を分け入れ、そのまま手の上に置いた。少しだけ膨らんでいた袋はスィースが追加したことにより更に重みが増したよう。 金属がぶつかり合うような音が聞こえ、またか、と心の中でため息をついた。 「す、スィース様! 多すぎます! むしろ、私が払う側です!」 「そんなことを気にするな。自分の国の民を幸せにするのが僕の役目だ。遠慮せず、受け取ってくれ」 「スィース様……」 押し返された袋を優しく返し、何も言わずにじっと目を見ていた。こいつは、こう言うところがあるから憎めない。自分が金持ちであることを鼻にかけず。困っている人には手を差し伸べる。 いつか自分がその座に立つことを分かっているからなのか、仲間を大切にしたい気持ちが人一倍強いのだろう。バカだバカだと言われていても、こうして行動で示されるとそうでもないかもしれないと思えてしまうのだから不思議なものだ。 「温かいものを食べて、ゆっくり休むんだ。誰のためでもなく、自分のために自分を大切にしてくれ」 「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」 何度も頭を下げてはお礼を繰り返すムムに対し、笑いながら「家まで送ろうか」と提案をしているスィース。さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ないと思ったのか、勢いよく首を横に振っていた。 あれだけの元気があればどうにかなるだろう。姿が見えなくなるまで見届けた後、ふぅと一息ついた。 「あれで良かったのか」 「んー? 別にいいだろ。自分だけが幸せな世界を作って、誰が喜ぶんだ」 「まぁ、そうだな」 スィースのくせに、まともなこと言いやがって。カッコつけているわけではないだろうけど、かっこいいと思ってしまうのが心底悔しい。自分には絶対にできないことだからこそ、そう思ってしまうのだろう。 きっとこれからもこいつの隣にいるんだろうな、と未来を考えていた。 「で、お前、自分の分のお金は残ってんのか?」 「えー? そりゃ、もちろん……あれ?」 さぁーっと顔から血の気のひく感覚がした。今さっきまでこいつの行動に感心していたのに、こんなタイミングでやらないよな? そんなことしたらこのまま倒れるんだけど。 ガサゴソと必死に探している姿をじっと見つめる。隣ではギラギラと太陽に反射した甲冑を着る男がニヤニヤしていた。お前、笑っている場合じゃないからな? 俺たちの今後に関わることだから笑っていると後悔するぞ?  今までの教訓含め、必死で阻止してきた事柄を頭の中で思い出しながら金髪野郎の反応を待った。 「やっべ。宿のお金ないわ、俺」 神様、俺が何をしたと言うのですか。真面目に生きてきたのにも関わらず、人生の途中でこんな山場を与える意味が分かりません。 ファーっと消えていくのは自分の脳裏に焼き付いていた記憶たちと必要だろうと思っていた予定の数々。困った時にはどうするか、緊急事態はどうするのか。予想できることは片っ端から考えていたはずなのに。 「え、リヤン? ちょ、大丈夫か! 誰がこんなことを!」 お前のせいだよ!!!!!!!!
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