旅の途中 〜カズーキ・ユエンの場合〜

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旅の途中 〜カズーキ・ユエンの場合〜

「オークから宝物を取り返して欲しい?」 「えぇ。最近魔物たちの活動が活発になってきたのか、盗みを働く輩が多いようで困っているんです。どうにか取り返そうと思ったのですが、なかなか上手くいかず……」 「それは大変だっただろう。可哀想に」 なーにが可哀想なんだよ。指にはギラギラ光る指輪をつけて、一体いくらするのか分からないハンカチで涙を拭いている姿を薄目で見た。ガシャンと重々しい音を立てて腕を組んだ。 こんなのと話をしていても無駄だと思うのだが、スィースは違うらしい。泣き真似をしているこいつのことを助けたいとでも思っているのだろう。 相変わらずお人好しで半分が優しさでできているだけある。ちなみにこれ、表現とかじゃなくて事実だからね。 「でも、何で今更そんなことを我々に相談したのですか? もっと早く相談することもできたのでは?」 リヤンの意見はもっともだ。国に申請して助けを求める時間も十分にあったはず。なのに、なぜわざわざ俺たちを待っていたのか。逸らしていた視線を戻すと、バチっと目が合ってしまった。 「そ、それは、ちょっと、色々ありまして……他のことで忙しかったのもあるのです」 「そうか。それなら仕方ないな」 こいつの形をポンポンと叩いている金髪頭。あれほど人をすぐに信用するなと言っているのに、いつになったら学習するのだろうか。「お前さぁ」と口を挟もうとした時。 「騎士団長殿は、お気に召さないようですが」 「は?」 「いえ、その、あなたは一般家庭の出身だとか。なぜこのような素晴らしい役職をもらっているのか分からないのですが、きっと素晴らしい才能があるのでしょうね」 ニヤッとした笑い方は、明らかにこちらを侮蔑していた。いやらしいその笑い方は自分の血液を沸騰させるには十分で、手に持った剣を動かそうとした。 「貴様、俺の部下に文句があるのか」 「え」 「文句があるなら、この話はなしだ。失礼する」  相手の肩に手を置いていた彼からは想像できない冷たい言葉に笑顔が固まる伯爵。ニヤついていた顔からはダラダラと冷や汗が垂れているのか、出口へ向かっているスィースに向けて叫んだ。 「お、お待ちください! それでは話が違うではないですか!」 「俺の部下を悪く言うなら話は変わる。そんな失礼なやつを助ける義理はない。助けてほしいならカズーキに謝罪をしてくれ。話はそれからだ」  振り返ったスィースの表情はいつものぼーっとした表情ではなく、王子としての絶対的な権力を振りかざしていた。親父のアーシ様はブンブン振り回しているが、こいつはそんなことは早々しない。 自分の立場が分かっているからこそ、「そんなことはしたくない」と言うのが彼なりの信念らしい。それを知っている俺らからすると、俺自身のことをバカにしたことは逆鱗に触れることと一緒のことだったようだ。  何かモゴモゴと話している伯爵は、俺の方をちらっと見た。まぁよくある話だ。リヤンは代々王族に仕えていることもあり、身分は保証されている。しかし、俺と言えばこのうでっぷしだけで今の地位まで上り詰めてきた。 もちろん、それを気に入らないと嫌がらせされることもあったが、俺自身気にしていなかったこともあり特に問題視されていなかったのだ。だが、いざ目の前にそのような人間が出てくると何だか複雑な気持ちになる。 「申し訳、ございませんでした。私の話をもう一度、聞いてもらえないでしょうか」 「カズーキ。伯爵を許すか?」 「まぁ、別に気にしてねぇよ。俺は、お魔の指示に従うだけだからな」 「そうか。それならもう一度話を詳しく聞こうか」 「あ、ありがとう、ございます……」  どう見ても、感謝の言葉を口にしているとは思えない表情だけどな。俺に向けていた頭のてっぺんは見えなくなり、代わりに視線が混じり合った。 あーあ。スィースがあんなことするから物凄い目つきで見てるじゃん。きっとリヤンも見えているはずだ。高い高いプライドが折られた瞬間を見てしまったようだ。まぁ俺には関係ないけど。   「そのオークというのはどこに?」 「この先にある山の奥です。とにかく力が強く、いつもなら倒せる者たちが次々に倒されてしまったのです。どうか、お願いします」 「……分かった。数日時間を欲しい。必ず、取り戻してくる」 「ありがとうございます!」  懸命に頭を下げている姿は俺に向けていた視線とは正反対のよう。あっちへこっちへ手のひらをクルクル返して忙しいやつだな。じとっとした視線を送り続けたが、こっちを見えないように……というか、いない者として扱っているようだ。 そんなことしたらまた何を言われるか分からないのに。 さてはこいつの頭はダチョウだな?
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