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真菜たち七人と親は謝りに謝り
再試験を許されて無事に進学ができた。
幸い大学に入学してからは特に不審な出来事もなく
卒業、就職、結婚と続いた。
真菜たちは年に一度は顔を合わせた。
夏になったら皆で海に行こうという話になり
当日子連れで集合した。皆、子どもはまだ一人だけだ。
真菜は結婚が一番遅く、妻帯者に騙されるという出来事もあったが
無事結婚出産にこぎつけ、娘の理々は三才となり、海水浴デビューだ。
「ねえ、真菜、あの事件はなんだったんだろう?」
葵が話をふる。
横で娘の美波が砂にお絵かきをしている。
「あの頃霊感のある子に、おばさんに憑かれてない?て言われて」
「もういいよ、あの話は。せっかく海に来たんだから楽しもうよ」
「そうだね」
ユキナは八歳になるやんちゃな男の子、蓮とバシャバシャ波を掛け合っている。
まどかも裕美も香美も陽愛もキャーキャー子どもたちに混じって波打ち際ではしゃぐ。
それは突然だった。
大人たちの頭より高い大波が二つ連続して押し寄せ
真菜も波をかぶり、強い引きに倒れこんだ。
海水を飲み込み咳をしながらようやく立ち上がると陽愛の悲鳴がした。
「チェリー、チェリー!」
陽愛の娘の智絵里があっという間に波にさらわれた。
真菜も周りを見ると理々がいない。少し離れた波間にピンクの水着が見える。
「理々!」
あわてて真菜は海の中へと追いかけた。
「ダメだよ、真菜。救助の人を呼ぼう」
まどかが真菜を抱き止めた。
裕美が走っていく。
「たいへん!助けて!」
すぐに救助隊員は来たが子どもたちはさらに遠くへ流されていく。
「いやあ、翔太。早く何とかしてよ」
香美の泣き叫ぶ声が響く。
太陽の照りつける中でで七人は救助隊を見守るしかなかった。
陽愛と裕美が暑さとショックで倒れた。
沖へ流された子どもたちが一人ずつ引き上げられ救急車で運ばれて行ったが、息を吹き返すことはなかった。
ユキナの息子の蓮は翌日ようやく見つかった。
七人誰もが泣き叫んでひどく混乱した。
それでも最後のお別れは皆いっしょにということになった。
大きなニュースとなり、葬祭場にはテレビカメラも入った。
七人の子どもたちの写真も飾られ、幼稚園や学校の友達も参列した。
真菜は震えが止まらない。
ショックなのももちろんだがエアコンが効きすぎて寒いのだ。
お焼香を待っている間、羽織るものが欲しかった。
誰か髪の長い女性がお焼香をしている。なぜか黒ではなく青いショールを羽織っていた。
真菜がじっと見ていると振り返った。
「地下鉄の中は寒いんだよ。文句あるかい」
女は真菜に何かを差し出した。
高校の時のバッジだった。
「ユキナの…」
女は堂々と出て行こうとした。真菜はその姿にぷつり、と何かが切れた。
「返せ!理々を」
真菜は火のついた線香の束を女の顔に押し付けていた。
「うがぐぉおおーっ」
目に線香を押し付けられて苦しむその顔は確かにユキナだった。
「呪い?どうして私が」
真菜は崩れ落ちた。
〈了〉
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