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夏休みの宿題(拓矢の場合)
「パパぁ、PC使いたいんだけど……」
8月30日、19時15分。夕飯の食卓で、息子の拓矢が大好きなハンバーグにも手をつけず、おずおずと僕を見上げている。
「なにに使うんだ?」
焦茶色の液体を一口飲んで、グラスを置く。中身はビールではなく麦茶だ。僕の予想通りなら、今夜は息子に付き合わされるはずだから。
「えっと……その、あの……」
口ごもる息子をジッと見詰める。使いたい理由は分かっている。けれども、自分の口から言わせなくては。
「あの、宿題の、調べ物をするんだ」
「夏休みの宿題だな?」
「う、うん」
小さく溜め息が溢れる。
「拓矢、今日は何日だ?」
「あなた……」
「いや、ママは黙っててくれ。拓矢?」
助け船に入ろうとした妻を止める。今回は、強い気持ちで話しておかなければ。
「さ、30日……」
「そうだ。新学期は明後日だよな?」
息子はバツが悪そうに肩をすぼめたまま、コクンと頷いた。
「パパは、毎年言っているよな? ママもだ。『夏休みの宿題は、毎日コツコツ片付けなさい』って」
「……ごめんなさい」
土日に重ならない限り、9月1日から2学期が始まることは、毎年変わらない決定事項だ。そして、拓矢は“6回目の夏休み”を終えようとしている。
「それで、あとなにが残っているんだ?」
「え、と……漢字帳1冊と、算数と英語のプリントが半分ずつと、社会のニュース調べ」
「ニュース調べ?」
「毎日、ニュースの中で興味があったことを選んで、感想を書くんだ」
今年もか。拓矢は、大物の課題を残す傾向がある。昨年は理科の課題――日の出と月の形調べだったか――が残っていたっけ。一昨年は、社会のリサイクルの調べ物と読書感想文を残していた。毎年、最終日に白旗を挙げていたが、今年は1日の猶予を持ち、手付かずの教科数が少しだけ減っている。少しは成長した……と言えるのか?
「お前なぁ……それをあと1日で片付けられると思うのか?」
「ニュース調べは、ネットの記事さえ見つかれば大丈夫だよ!」
自信ありげな笑顔に頭が痛くなる。この無計画は、誰に似たんだ。少なくとも、僕じゃない。僕は、計画的にノルマを決めて、毎日コツコツこなしていくタイプなのだ。
「大丈夫じゃないだろ。PCは使っていいけれど、パパは手伝わないからな」
「分かった! ありがとう、パパ」
「さ、それじゃ早く食べて頂戴」
せっかくの夕食が冷めてしまう。妻が不機嫌になる前に、僕達は揃ってハンバーグに箸をつけた。
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