バロウ視点。16可能性の後

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バロウ視点。16可能性の後

 はにかみ手を振るソーマさんを、離れがたいが見送った。  昼過ぎからのデートはとっくに日が暮れるまで続いたが、全く時間が足りない。二人で歩いた駅から家への道をいつも通り一人で歩く。でこぼこした石畳。車道と歩道の隙間から根性で生えている雑草。通り向こうにすれ違う獣人。  まだ夜は始まったばかりだが、彼はいなくなってしまった。帰さなければならなかったし、おれの睡眠を心配する彼は残ろうともしなかった。外で手を繋ぐこともなく、家を出る前に別れのキスをした。それが最後の接触だから、隣を歩く間そわそわと残念で、何度手を握ってしまおうかと考えたかわからない。  つい先ほど前科を作ってしまったものだから、終わりの時くらいはまともな奴だと思われなくてはならなかった。家というのは密室で、そんなところに訪れた途端キスされたという時点で、引かれ嫌われ蹴とばされてもおかしくはなかった。更に、おれは彼に手を出してしまった。――あれは仕方ない。なんて言ったら反省していないとろくでなし判を押される。  ああ、でも、可愛かったから仕方がない。  おれを恐れなくなったソーマさんは、ただ興味深げに触ってきた。きっと牙を突き立てられる想像なんか少しもしなかったんだろう。怖がってほしくはないけれど、警戒はしてほしい。人間だろうと獣人だろうとまともじゃない奴はいくらでもいる。現におれに簡単に襲われてしまっているし。  彼は経験がないと自称するけれど、本当のところは分からない。おれより少し長く生きている彼の演技が、多少うまい可能性はある。演技が上手かったなら、最初の顔合わせの時点からもっとうまくおれを躱したんじゃないかとも思うけれど。それに、大きく足を開いた彼は見ないで欲しいと恥じらって言ったが、後ろから覗きこまなくたって部屋の隅に置かれたモニターの黒い画面に映り込んでいた。彼の視線はずっとおれの手に置かれ、気持ちよさを追うのに必死だったように見えたけれど、あれは演技だろうか。素で自分の状況を見れていなかったんじゃないだろうか。  泣き声にも似た、刺激の強い喘ぎが今も耳の奥にこびりついている。  先ほどまでソーマさんがいたソファに一人座る。彼の温もりは残っていない。  まぁ、どちらでもいい。彼の経験の有り無しが関係するのは、これからの行為についてだけだ。  正直言って、ソーマさんに挿入したくて仕方がなかった。触らなくていいと断ったけれど、してもらえばよかったかもしれない。だけども触ってもらったら確実にそのまま襲っていただろうと、今考えてもやはり思う。経験があろうと無かろうと問題はないが、遊んでいるようには見えなかった。獣人を避けていた彼が人間しか相手していなかったとすると、その体を傷つけてしまうのは間違いない。だからこの、彼を思い出しただけで痛む股間は褒めていい。  体内で脈打つ熱は置き去りのままで、消えてはいない。押し留めていたはずが漏れ出して下着を汚している。脳みそは勝手に再び彼の残り香と虚像を召喚しているし、そのまま続き(・・)をしてしまう。  ひくひくとおれを呼ぶ穴にゆっくり指を差し入れて、怖がる体を抱きしめたい。彼のいいところを探して解し、上がる嬌声に噛り付きたい。じっくり奥まで開いてからおれのを宛がい、不安の無くなったあの黒い瞳に期待されたい。  本当にこの頭はろくでもない。こんなおれを彼はまだ知らない。隠せてなかったかもしれないが、もう少しくらい、装わないと。
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