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新学期が始まる。
あれから図書室に行っても、杉崎さんとは会えなくなった。彼女がどうなったのか、気になって仕方がない。
サッカーの試合は、結局地区予選敗退。
全国制覇の夢も、夢のまま終わってしまった。僕が出ていたら勝てた。なんて、嬉しいことを言ってくれる奴もいたけれど、きっとそんなことはないし、仮に怪我をしなかったとしても勝てる保証なんてどこにもなかった。
冷静になってみると、周りが見えてくる。こうして気持ちの整理がついたのも、杉崎さんのおかげだと思っている。
ざわつく教室に担任が入ってきた。
「みんなに一つ伝えておきたいことがある」
真面目な顔つきで切り出すから、教室内が静寂に包まれた。
「もしかしたら、もう知っている人もいるかもしれないが、夏休み初日に、杉崎が交通事故にあった」
教室の杉崎さんの机だけが空っぽで、みんなが一気にまたざわめきだす。
「ずっと昏睡状態で、先生も何度かお見舞いに行ったんだが……」
そこまで言って、目元を指で抑えるから、僕の心がざわめき始める。まさか。
「一昨日、ようやく意識が戻ったそうだ」
パッと顔を上げて、涙の滲む目で心の底から安心したような笑顔を向けてくる担任に、僕の瞳が崩壊してしまった。
クラスのみんなが、僕を見て驚いていた。
だけど、そんなの構わない。生きていてくれたことが、こんなに嬉しいなんて。
杉崎さんと会えていなかった日数が、会えていた日数の何倍にも長くて怖くて、辛かった。
「泣けよ」、なんて言っていた僕の方が泣いてしまっている。周りのみんなが引くぐらいに。
杉崎さんにまた会えるんだ。
歪んで見えた空の青が、煌めいていく。
夏の終わり、僕は君に、恋をした。
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