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 僕のことなど気にも止めていないように、彼女は手元の本に夢中になっていた。  いつからそこにいたんだろう。そんなことが頭の中に過ぎったけれど、あまり考えるのはやめようと、体勢を立て直すと冷静を装った。  だって、僕は彼女を知っている。  話したことは無いけれど、同じクラスで友達にいつも囲まれて居る、明るくて真面目な杉崎(すぎさき)詩花(しいか)。  ようやく、僕の存在に気が付いたのか、杉崎さんが驚いたように目を見開いてこちらを見ている。 「……内田(うちだ)くん……? どうして?」  僕が図書室にいることが、そんなに驚くような事なのだろうか? 少しだけムッとして、杉崎さんを見る。 「杉崎さんこそなんでここにいるんだよ。いつ入って来た?」 「え、あ、あたしは……」  目をうろうろと泳がせながら、杉崎さんは本へと視線を落っことす。 「本が読みたかったから」  あたり前のような理由を答えられて、またしてもモヤっとしてしまう。だけど、それに対して何かを返そうとは思わない。  汗ばむ僕と違って、涼しい顔をして、杉崎さんの瞳はまた文字をなぞり始めた。
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