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 斜め向かいに座って、リュックからノートと教科書、ペンケースを取り出して広げた。  別に、勉強がしたくてここへきた訳じゃなかった。  家にいても、弟や妹がいて落ち着かなかったから。学校に来たからといって、僕の足はもうサッカーができる足ではなくなっていたから、部活も出来ない。校庭で走り回る部活仲間を見るのは辛いけど、だけど、気持ちだけ、みんなと一緒に高校最後の夏を、過ごしている気分になりたかった。 「あ、そこ、間違ってる」 「……え?」  目の前の席まで来ていた杉崎さんが、僕のノートを覗き込んで指を差す。 「あたしもよく引っかかるんだよね。教えようか?」  遠慮がちに聞かれて、困ってしまう。  別に勉強はどうでもいい。単なる現実逃避のためにきていただけだったから。  杉崎さんは頭がいい。だからって真面目ちゃんなわけじゃなくて、どちらかといえば溌剌としていてやんちゃなメンバーといるし、クラスでもみんなから慕われていて、いつも机の周りには友達がいっぱいいるようなイメージだ。  だから、図書室で一人で本を読むとか、ありそうでないシュチュエーションに驚いていた。  杉崎さんの教え方は丁寧で分かりやすかった。広げるためだけに持ってきたノートがみるみる埋まっていく。 「すげーな、やっぱ杉崎さん頭いいわ」 「ふふ、ありがと」  否定しないところがなんだかかっこいい。なんて、杉崎さんの笑顔を見て思ってしまった。
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