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商店街は相変わらずひと気が無かった。
がらんと、人間だけが消え去ったような風景。
でも、なぜか生活感が残る町。
遠景に浮かぶ山の稜線は、燃えるような茜色で縁どられていた。
総菜屋の商店街の前で立ち止まると同時に、足元が光に包まれた。
タンポポの綿毛のような光の粒子が、夕空に舞い上がり、私の身体をも包み込む。
帰ったら……美和さんと、ちゃんと話してみようか。
もう後悔したくない。
当たり前にいると思っていた母が、ある日突然いなくなってしまったように。
学校も終わりがないわけじゃない。
あと半年。卒業までのカウントダウンでもしてみたら良いだろうか。
紗和ちゃんと、美和さんと、お父さんと。少しでも話せたら、笑えるようになれたら。
学校を自分の居場所にする必要なんてない。
そう思えたら、朝を迎える辛さも、少しは紛れるだろうか。
わからない。けれど、もしかしたらこの先に、いつか本当に心から笑える時が来るかもしれない。
人生の長い旅のどこかで、本当の幸せを見つけられるかもしれない。
「美琴ちゃん?」
白い光が視界の半分を覆い始めた時。
商店街の奥の電信柱の隣に立つ、銀髪の少女が見えた。
カナカナカナ……
踵を返した少女の青いワンピースの裾がふわりと膨らんで、商店街の奥へと歩いていく。
夏の終わりの、切ない黄金色に溶けるように。
視界が白に埋め尽くされる間際、耳元で囁く、風鈴の音の声が聞こえた気がした。
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