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「え――」
右目を覆っていた前髪をかきあげようと額に手を伸ばして、妙なものが手の平に触れた。
手のひらには何もついていない。だが、総菜屋のショーケースに反射した自分の額には、大きな擦り傷が出来ていた。
古い怪我だろうか、傷は乾いて、ざらりとした感触が指の腹を伝って、胸をざわつかせた。
私、何してたんだっけ……。
ふわりと商店街を抜ける乾いた土の匂いを抱いた風が、レジ台に置かれたままのメモ用紙をもの悲しくぱらぱらとめくった。
その時、頭に鋭い痛みが走り、舗装されていない足元から飛び出した石に躓いて、一瞬にして眼前に地面が迫った。身体に激しい衝撃を襲う。
「大丈夫?」
鈴の音のような声という言葉を聞くが、彼女のそれは、どちらかと言うと風鈴の音色のような声だった。
繊細で、深い優しさを含んだような声の成分はそうだ――ひぐらしの聲にも似ている。
地面にうつ伏せた私が顔を上げると、真っ白の――夕日に照らされて銀色にも見える長い髪の少女が、金色の瞳で覗き込んでいた。
「魔女……」
「まじょ?」
「魔女のクラリスみたい」
「くら、りす?」
少女は何のこと?と小首を傾げた。
小学校低学年くらいだろうか。
背格好とあどけなさを残した顔立ちは小学生だが、纏う空気は瞳と髪色のせいか息を呑む程に神々しい。
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