1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひとに向かって自転車を倒してきて、笑ってんじゃないわよ」
夜子は怒りに任せて言い放った。
決して言いがかりではない。
自転車は、永井を起点にして夜子に向かって倒れてきたのだ。
永井がハンドルを握っているところをみると、
自分の自転車を引っ張り出そうとしてぶつかってしまったのだろう。
「見なさいよ。私がここで食い止めなかったら、
後ろの自転車がぜんぶ倒れてたのよ。ほかに言うことがあるでしょう」
学校でも予備校でも、夜子は物静かなほうだ。
人に話しかけられることは少ないし、自分から声をあげたりもしない。
特にしゃべる理由がないからそうしているというだけのことなのだが、
周囲からは大人しい性格に思われやすいようだ。
本当は、必要とあらば物怖じせずハッキリと言う。
そんな夜子に反撃されて、永井は目を丸くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!