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「……別にいいよ。私、もう帰るから」
「えっ。待ってくれよ」
夜子はカンと自転車のスタンドを蹴って、その場を離れようとする。
そんな夜子の肘を、永井が掴んだ。
「なんかお詫びに……ああ、今、これしか持ってないや」
たかが肘でも、男子に触られるなんて、何年ぶりかわからない。
そのうえ、スルリと手のひらに何かを握りこまされる。
「改めてちゃんとお詫びするから。なにがいいか考えておいてくれよな」
永井は金持ちのお坊ちゃんらしく、軽く胸を張って言った。
夜子の思考が追いつく前に、永井は自転車にまたがっていた。
「じゃ、まったなー!」
白い歯を見せて笑うと、流れ星もかくやという勢いで去って行く。
その場に取り残された夜子は、はっとして手を開いた。
渡されたのは、明るいオレンジ色のキャンディだった。
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