1 電車

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1 電車

 ――そういえば、アメをもらったんだっけ。  通学の電車のなかで、野々宮 夜子はふと思い出した。  空調のぬるい風が、彼女の長い黒髪を揺らしている。  夏休みも終わりに近い地下鉄車両は、なかなかの混み具合だった。  夜子が座る前には浴衣姿のカップルがいちゃついている。  イベント目当ての家族連れも多いようだ。  ドア上のニュース画面では、水難事故や山火事のテロップが踊っている。  都内でも、花火が火元になった火事があったらしい。  夏休みで事件や事故が増えるのは嫌だ。 (でも、夏らしいイベントがないのも、なんだか……)  夜子はあくびまじりに自分の制服姿を見下ろす。  平日と変わらない紺色のセーラー服に身を包んでいるのは、  文化祭の準備があるからだ。  夜子のクラスでは当番制で展示の準備を進めている。  正直、休み中にまで高校に行くなんてかったるい。  そう思うが、補習や部活のついでに参加するクラスメイトもいる中で、  サボりがバレて陰口をたたかれるほうが面倒だ。  それに、やるからにはいいものを作りたい気持ちもあった。
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