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満員電車というものは、あまりにも非効率だと誰かが言った。
通勤時間になると身動きもとれないほど混み合うというのに、数時間後の昼過ぎにはほとんどの席ががら空きになる。稀に人の少ない時間に乗車すると、乗客の少なさに驚くくらいだ。
つまりは、電車の大きさが常に一定であるのが悪い。その真理に人はたどり着いてしまったのだ。
乗る人間の数に合わせて収縮する電車を、作ってしまえばいい。歴史上でも活版印刷の発明やニュートンの万有引力理論に並ぶ、大発見だった。
そうと決まれば、作ってしまうのが人間というものだ。進化した科学は今このために、とばかりに駆使され、多くの著名な科学者たちによってその技術は完成した。
こうして、世界で初めて、乗客の数によって大きさの変わる電車──プルセイション・トレイン、通称”脈動する電車”が誕生した。
もちろん、電車が伸び縮みするならば、それに合わせて線路の太さが変わることも必要だ。線路という、街中に走る電車の道を作り変えるには、莫大な費用がかかる。
しかし、この”プルセイション・トレイン”を利用した人々によって、多くの寄付が集まった。
「もう満員電車に苦しまなくていいんだ!」
「これで、仕事のストレスがひとつ減ったよ!」
「人と密着することが苦痛だった真夏の通勤から開放された。すばらしい発明だ!」
誰もが口を揃えて、プルセイション・トレインとその制作に携わった功労者たちを褒め称えた。伸縮する線路を作るための街頭募金活動は大成功し、募金箱は札束と小銭でいっぱいになった。
快適に電車を利用することができると、全員が思っていた。しかし、課題はこれからだった。
プルセイション・トレインの性能のすばらしさが人々に認められ、今までの電車が撤廃されていく動きが活発になった。しかしそれは同時に、新たな問題を呼び起こしたのだ。
線路が伸縮するなら、その線路沿いに建つ建物も広さを自由自在に変えるべきだ。通勤ラッシュの時間には物置のように縮こまり、電車の利用者が激減する昼の時間帯には空いたスペースを広々と使う。
それこそが、建物の持つ役割ではないのだろうか。人々は、次第にそう唱え始めたのだ。
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