勇者、落ちる!

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 ……確かに、上下スウェットで裸足のおれの姿はだらしなく見えるだろう。 「衣装くらいなら用意してあげますから、見れる程度には整えてきたらどうですか?」 「……い、いいのか?」 「ええ。見るからに試練に向かない装いで挑まれても不公平ですし」  そう言って、ライムグリーンは手を鳴らす。  すぐに数人がやってきて、簡易的なカーテンと礼装らしき衣装を持ってきた。  用意された衣装はしっかりした生地のジャケットとズボン、そして脛まである編み上げブーツだ。  詳しくは分からないが、知識のないおれが見てもこれが上質なものであることだけは分かった。  それをカーテンの中で着せられていく。  スウェットよりも窮屈なのは当たり前だが、礼装らしく堅い装いは余計に窮屈に感じた。  ボタンからベルト、靴紐まですべてキッチリ留められ、カーテンから解放される。  そのまま少年の隣へ戻ると、全員がおれを見た。  その目はどこか生ぬるい。 (似合ってないのは百も承知だよ……)  そもそもこんな上質な服が平凡な日本人に似合うわけがない。  鏡を見たわけではないが、しっかり服に着られている自覚はあった。 「……まあ、いいでしょう。先ほどの襤褸(ぼろ)よりは充分マシです」  棘のある言い方をし、ライムグリーンは視線を椅子の男へと向ける。 「お時間をいただき、ありがとうございます。これで準備は完了かと」 「うむ、相分かった」  ライムグリーンにそう返し、椅子の男は杖を掲げた。 「これより、挑戦者へ三つの試練を与える。第一の試練は知の試練だ」  そしてそう宣言し、ダンと杖を鳴らす。  その瞬間、少年のバングルが光を発し、空中に文字が現れた。  ……さっぱり読めないが、たぶん文字だろう。 「ふんふん、なるほどなるほど……」  少年にはちゃんと読めているらしく、その目はじっくりとそれを追っている。  そして少年はそれから視線を外し、言った。 「さっぱり分からないのだ……!」  
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