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「この紙は『バルバラ保護紙』といって、盗難や偽造、改ざんなどを防ぐことが可能でございます。時の魔王バルバラ様が発明し、使用を義務付けることで今日に至るまであらゆる不正行為から数多の重要書類を守ってきたのですよ」
魔王バルバラといえば、バルドリースから数えて六代前の女性魔王だ。
女性の魔王は七人だけなので比較的覚えやすかったのを覚えている。
「せっかくですから、殿下の技術もバルバラ保護紙に記しましょう。私めが責任をもって管理いたしますが、万が一ということもございますから」
そう言ったバーレンツの声はわずかに明るく、弾んでいるように聞こえる。
きっと何度もバルバラ保護紙に助けられ、守られてきたのだろう。
まずは用意された二枚の契約書を読み、相違点や不備がないことを確認してライアンとバーレンツが署名する。
書き込まれた契約書は淡い青色に光り、やがて治まるとわずかに光沢のある紙へと変化した。
店内の照明を受けた紙はうっすらと虹色に見える。
それぞれ契約書を取り、二人は大事にしまい込んでホッと息をついた。
「無事に契約が成立いたしましたので、今後の予定をご相談したく思います」
「えっ、えっと、今からボクが教えるのではないのですか?」
「私めにとっては大変喜ばしい申し出でございますが、皆様方にも予定がおありでしょう」
そう言われ、ライアンと顔を見合わせ、揃ってバルドリースへ振り返る。
(そういえば『着いてからのお楽しみ』だから、予定も何も聞いてなかったな……)
どう聞いたものかと考えているうちに、バルドリースの表情が気まずそうに曇っていく。
「……構わぬ。ライアンのしたいようにするがよい」
珍しく弱った声で言い、バルドリースはそっと目を逸らしてしまった。
再びライアンと顔を見合わせると、ライアンは窺うように首を傾げる。
「ヒロはどうなのだ?」
「おれはライアンの意思を尊重するよ」
当初の目的からは離れているような気がするが、当事者の思った通りにやってほしい。
おれの意思が正しくライアンに伝わったかは分からないが、ライアンは姿勢を直し、視線を直し、バーレンツへと言った。
「……だったらボクは、今から技術をお渡ししたいのです」
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