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ライアンの視線がおれへと向く。
見るからに返答に困っているのが見て取れた。
当たり前だ。今日が初めての買い物なのに、技術の売り方なんて知ってるはずがない。
おれだってそんなことはよく知らない。
だが、ライアンが何に困っているのかはたぶん分かる。
「なあ、ライアンはこの技術をどうしたいんだ?」
「どうしたい……?」
そう確認すれば、ライアンは呟くように復唱する。
「うん。自分だけの特別な技術にしたいのか、バーレンツさんに譲ってもいいのか。それだけで決めてもいいんじゃないかな」
技術売買の最適解なんて分からないが、分からないならそういう風に決めてしまってもいいのではないだろうか。
そう伝えれば、ライアンは納得したように頷き真剣な表情をバーレンツへ向けた。
「……この技術は、きっとそんなに特別なものじゃないのです。失敗して、観察して、練習すれば分かると思うのです」
ライアンはそう言って言葉を切り、深く息を吸って再び口を開く。
「それでも買うのなら、お売りするのです。ボクだけが持っているより、必要とする人たちに広く知られたほうがいいと思うから」
ハッキリと言い切り、それからライアンは眉を下げた。
「……えっと、でも、上手に教えられるか分からないのだけど……」
「ありがとうございます、ベールライアン殿下。ぜひとも買い取らせていただきたく思います」
自信なさげなライアンへバーレンツは言い、どこからか二枚の紙を取り出す。
何やら文字の書かれた紙に文字を書き加え、バーレンツはその二枚をライアンへと差し出した。
「……この紙は何なのですか?」
「この売買の契約書……売買を行った日付や当事者の名前、約束事などを書き記した大事な書類でございます。無くされないよう、大切に保管なさってくださいませ」
バーレンツの説明にライアンは再び首を傾げる。
「……紙、なのですか? 記録端末ではなく?」
「記録端末はまだ保護技術が不完全で、簡単に偽造、改ざんできてしまいますので契約書などの重要書類には向かないのです」
言いながら、バーレンツは卓上に並ぶ紙を指で指した。
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