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決して口には出せない冗談を飲み込み、他のショーケースを見ては誰に似合うかを思い浮かべて過ごす。
(このバングル、色合いはエステルに似合うだろうな。このサイズだとエステルには首輪みたいになるけど……)
とんでもない額の値札は見なかったことにして、他のショーケースへ視線を移す。
(このブローチ、ヨアンさんに似合いそうだなあ。こっちのネックレスはカタリア先生かな)
面白いことに、こっちに来てからの知り合いに似合いそうなアクセサリーがポンポン見つかった。
……しかしやはり、ライアンに似合いそうなものは例のイヤリングしかないと確信する。
(でも、おれには魔力がないから、おれの色の転輝石を贈ることはできないんだよな……)
さっきバーレンツに提案されたように、同じデザインで違う石のものを用意してもらうのが無難だろうか。
……それ以前に、ライアンが選んだ耳飾りと同じものでいいのだろうか。
(そもそもおれたちは、試練に参加するために夫婦になっただけだよな……?)
それなのに、互いの色をあしらった揃いのものを身に着けるなんて、まるで本当の恋人みたいじゃないか。
(――いやいやいや! 確かにライアンに懐かれてる自覚はあるけど、これはそういうのじゃないだろ!)
今さらになってたどり着いた思考を慌ててかき消し、静かに深呼吸を繰り返す。
変な想像をしてしまったせいか顔が熱い。心臓がうるさい。
(確かにライアンはかわいいし優しいし、一緒にいると落ち着くし癒されるけど!)
あくまでそれは子供を見守る大人の視点であって、決して恋愛感情ではない。
おれがライアンの隣にいるのは――ライアンの伴侶でいるのは、あくまで仮初のものなのだから。
(――そうだ。いつかきっと、ライアンも本当の伴侶に出会う日が来るんだ)
そしていつもの笑顔をおれに見せて、元気にこう言うのだろう。
『ヒロに紹介したい伴侶がいるのだ!』
と。
それは空想とは思えないほどくっきりと浮かび、頭の中に焼き付いていく。
(……それは、嫌だ)
胸を刺すような痛みと共に浮かんだ感情は、散々否定した恋情を簡単に肯定してしまった。
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