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ライアンには幸せであってほしい。
思い通りにいかないことはあっても、思うがままであってほしい。
そんな風にキレイなことを想っても、実際に想像してみればどうしようもない欲が湧く。
いつまでもライアンの隣にいたいと願ってしまう。
(……それでライアンが幸せならいいけど……)
逃げ道のように浮かんだそれは、わがままで、傲慢で、どこまでも自己中な願望だった。
都合のいい部分だけを都合のいいように受け取ってはいけない。
ライアンがおれを伴侶にしたのは、それ以外に選択肢がなかったからだ。
それがきっかけで懐かれて、今はまだ一緒にいるだけ。
ライアンとの関係は、言ってみれば共犯から始まった友情のようなもので、実際にライアンから向けられていると感じるのは友愛の感情だけ。
それを勘違いしてはいけない。
ライアンが外の世界を知って、たくさんの人と出会っていけば、おれじゃない誰かに恋をする時が来るかもしれない。
後ろ盾のない、魔力も持っていない――何の能力も持たない異界人のおれよりもずっと頼もしい人と想い合う時が来るかもしれない。
(……そうなったら、おれはちゃんと身を引けるんだろうか……)
それ以前に、おれはこの自己中な感情を隠し切れるだろうか。
――それでも、将来ライアンの邪魔になるのなら、この恋情は何が何でも隠し通さなければいけない。
「……頑張らないと」
「何をだ?」
口をついて出た決意に、バルドリースの声が問うた。
悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたい。
「い、いえ……今の財産では何も買えないので、頑張って働かなければと思った次第です」
「そうか。殊勝な心掛けだな」
何とかそうごまかせば、バルドリースは特に言及もせず穏やかに笑んだ。
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