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一度自覚してしまうと、ずっとそれを意識してしまう。
露骨に目で追ってはいけないし、露骨に目を逸らしてもいけない。
決して悟られないように、今まで通りに振る舞わなければならない。
そればかりを考えているうちにライアンとバーレンツのやり取りが終わり、思考が落ち着かないまま三人で店を後にした。
「では、そろそろ戻るとしよう。あまり遅くなっては皆が心配するからな」
「はい、父上」
「分かりました」
バルドリースの言葉にそう返し、努めて自然にライアンへ視線を送る。
すぐに赤色の目がこちらへ向き、ライアンは笑顔で頷いておれを抱え上げた。
(平常心、平常心……!)
そう言い聞かせながら、落ちないように――断じて下心などなく――ライアンへ抱きつく。
なんてことのない、いつもと同じ飛行移動だ。特別なことは何もない。
(……いつも、こんなにくっついてたのか……)
気づいた瞬間、耳が熱くなるのを感じた。
すぐ目の前にはライアンの横顔。
飛ぶことに集中しているらしく、真剣な表情でバルドリースの後について飛んでいる。
(……かわいいのに、かっこいいんだよな……)
こんな魅力的な表情を間近で見て、よく今まで平静でいられたものだと過去の自分に感心した。
今はもう、あの時の平静を思い出すことはできない。
沸騰しそうな頭をどうにか正常に保つのが精一杯だ。
幸いなのは、飛行に集中しているライアンがこちらを向かないことだろう。
絶対に赤くなっているおれの顔を見られるのもかなりまずいが、こんな状況で目が合ったらいよいよ取り繕えない。
距離が近い上に、空には逃げ道がない。
ライアンなら確実におれの異変に気づくだろう。
(……た、頼むから気づかないでくれ……早く着いてくれ……!)
入り混じる緊張のせいで早くうるさく鳴る心臓の音を聞きながら、おれはただそれだけを祈り続けた。
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