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空の移動そのものは至って平和で、無事におれたちはラルズガルト城内へ戻れた。
(し、心臓壊れるかと思った……)
地に足をつけ、深呼吸をする。
ずっと暴れていた鼓動が、ようやく落ち着きを取り戻した。
「ヒロ、大丈夫?」
ライアンの言葉に心臓が跳ねる。
「……もしかして、体調が優れないのか?」
気遣うような優しい声に、なぜか胸が痛くなった。
「あ……だ、大丈夫。いつもより長い移動だったから、ちょっと緊張してただけだよ」
とっさにそう嘘をついて、いつもの笑顔を作ってライアンへ向ける。
「ライアン、ありがとうな」
「うむ、どういたしまして!」
元気な言葉とともに向けられた笑顔が眩しい。
落ち着いたはずの心臓がまた暴れ出しそうだ。
(おれ、こんな調子なのに隠し通せるのか……?)
自覚してからずっと、ライアンの一挙一動にときめいている。
表情が移り変わるだけで見とれてしまうし、視線がこちらを向くだけで耳が熱くなるのを感じる。
表情筋は何とか持ちこたえているつもりだが、それ以外はまるで抑えられない。
脈拍も熱も――恋情も、おれの意識の外で勝手に盛り上がってしまう。
(……でも、隠さないと)
おれの自己中な感情でライアンに気を遣わせたくはないし、ライアンを苦しめたくもない。
いつかライアンが真に想い合う相手と出会った時に後腐れなく別れられるよう、おれは自制しなければならない。
何度目かの深呼吸をし、表情を整える。
「ヒラサワよ、体調は落ち着いたか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「構わぬ。ライアンもヒラサワも、今日は部屋に戻って休むがよい」
「分かったのです」
「分かりました」
バルドリースの言葉に礼をし、差し出されたライアンの手を取って自室へと向かう。
「――ふむ、夫婦仲が良好なようで何よりだ」
少し離れた背後からそんなバルドリースの声が聞こえ、再び心臓が、熱が、感情が暴れ出した。
(できるだけ考えないようにしてたのに……!)
頼むから、余計なことを言わないでほしい。
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