勇者、自覚する!

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 ライアンと繋いでいる手がムズムズする。  今すぐ離して落ち着きたいという照れくささと、いつまでも繋いでいたいという欲求がごちゃごちゃに絡まる。 (お、落ち着け、落ち着け……!)  ただ、手を繋いでいるだけだ。  さっきのように抱えられているわけでも、極端に距離が近いわけでもない。 (意識しないように違うことを考えて落ち着こう……!)  たとえば、今日の外出はどうだろう。  目的である買い物はしていないが、城外の景色や悪意を知ることができたのは確かな収穫だった。  ダルムラントの歴史の一端を知ることもできたし、学ぶことは多かったはずだ。 (……相変わらず、おれは何もしてないな)  何かの役に立ったかと言われれば、ただ緊張して立ち振る舞いを取り繕っていただけである。  上手く思考は逸れてきたが、今度は何だか落ち込んできてしまった。  不甲斐ない自分に思わずため息がこぼれる。 「……ヒロ、もしかしてちょっと疲れちゃった?」  しまったと思った時には遅かった。  ライアンの言葉が、視線が、おれに向けられる。  それだけで心臓が大きく跳ね、耳に熱が集まってくる。 (うう、重症だ……)  こんな状態ではまともに顔も見れない。まともに会話できるかも疑問だ。 「……べ、別に疲れてるわけじゃないんだ。ただちょっと、反省というか……」  せめて表情だけでも、と取り繕ってライアンへ答える。  しかしライアンの表情はますます不安げに曇っていく。 「……ヒロ、ちょっとじっとしてて」 「うん? 分かった」  神妙な表情のライアンへそう返すと、ライアンはふわりと体を浮かせる。  目線の高さが近くなり、鼓動の音がうるさくなっていく。 「ら、ライアン?」  何をするんだ? と問うより前に華奢な手がおれの頬に添えられ、思わず肩が跳ねる。  しかしライアンはそれに気づいていないらしく、そっと目を閉じその顔をおれへと近づけ――  おれは思わず、固く瞼を閉じた。  
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