第一章

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時は遡ること、一年前の凍えそうなある冬の日のこと。僕は両親に借金のかたに、奴隷として売られてしまった。 両親とは言っても、本当の親ではない。僕は生まれて間もなく、教会の前に捨てられていたらしい。 それで、両親は子供がいなかったから僕を引き取った。でも、残念ながら僕は魔法が使えなかった。 「あの子が、魔法を使えれば」 「ったく、あんな子。引き取るんじゃなかった」 両親のひそひそ話する声が聞こえ、僕は自室で声を押し殺しながら泣いていた。 「――――好きで、魔法が使えないわけじゃないのに」 この世界では、魔法が使えない。たったそれだけのことで、人間以下だと認識され見下される。 早い人だと、生まれて間もなく発動する。遅くても、十四歳で発動するのが普通である。 今日が、その十四年前に僕が捨てられていた日である。そのため、僕は借金のかたに両親に売られてしまったというわけだ。 先ほどから、何人もの自分と同じ境遇の人たち数人とともに寒い中を馬車に揺られていた。 そして、どこか分からない目的地へと向かっていた。悲しいとか、悔しいとかそういう感情はとうの昔に捨ててしまった。 僕が捨てられていた子だった、それを知った時に。だから正直、絶望しかなかった。でも、もし神様が本当にいるのならば―――― 「僕に、真の愛情をくれる人と出会わせてください」 僕は、寒く凍える揺れる馬車に揺られながらそんなことを考えていた。そんな時だった、奇跡が訪れた。いな、今思えば必然だったのかもしれない。
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