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「何をしている。こんなところで」
声が聞こえた。とても、低くドスの効いた冷淡な声。でも、凛々しくて暖かいそんな声を。僕は、声がした方を見てみた。すると、馬車の荷台からかすかに見えたのは――――
月明かりに照らされ雪が降る中で凛とした、綺麗で腰まである薄紫色をした髪を持つ絶世の美男子だった。
瞳の色は、暗闇でも映えるほどに美しい藍色のアクアマリンのような切長な瞳だった。すらっとして、余計な筋肉がついていなくて誰が見ても目を惹かれてしまうだろう。
一目見た瞬間に、彼の虜になってしまった。同性にこんな感情を抱く日が来るなんて、思いもしなかった。
僕が見とれていると、勢いよく馬車に被されていた汚い布をその人が開けたのだ。その光景が、あまりにも美しく優雅だった。
一目で貴族や王族の位の高い人間であることは、誰が見ても一目瞭然だったと思う。
「俺の名は、ウォルター・フィリップス――――お前、名は」
「リアム……です」
そんな人に、手を差し出されて勢いでその手を掴んでしまった。そして、月明かりに照らされながらその人はこう言ったのだ。
「リアム、俺と共に生きたいか」
「はい」
先ほどまでの、絶望がまるで嘘かのようにこれからの人生に期待できる。彼の月明かりよりも綺麗な、アクアマリンの瞳を見てなぜだがそう信じられた。
それからは、ウォルターと名乗る人物に連れられて彼の見るからに高級そうな馬車に乗せられてどこかへ走り出した。
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