ラスベガスの一夜

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 椅子から立ち上がった私は、身に着けていたドレスのファスナーに手を掛ける。しかし手が震えて、うまくいかない。  見かねた須郷社長が椅子から腰を上げ、私の背後に立った。 「負けたくせに俺を焦らすとは、きみは見た目より狡猾だな」 「焦らしてなんか……っ」 「まぁいい。きみはまたすぐに、ベッドの上で俺に敗北する」  須郷社長の指先が、私の首筋のラインをなぞる。  つう、と指が這ったあと唇を押しつけられ、心臓が破裂してしまいそうに暴れた。  衝動的な意地で、なぜこんなに危険な賭けをしてしまったのだろう――。  自問している途中でファスナーを下ろされたドレスがストンと床に落ち、背後から強引に唇を奪われる。  勝者の傲慢さを滲ませたような、彼主導の深い口づけ。腹が立つのに夢中になってしまう自分は、やっぱり彼に勝てないらしい……。  敗北を悟っていると体の向きを変えられ、背中からテーブルに押し倒される。  須郷社長との甘く危険な一夜の始まりは、数時間前。  このホテルに併設されたカジノを、プレアラの同僚たちと訪れたことがきっかけだった。
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