梅雨時の朝に

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梅雨時の朝に

――6月の朝。 どんよりと青みがかった灰色の雲から、静かな音を立てて雨が降り続いていた。 関東が梅雨入りしたとニュースで言っていたのは先週だったか――。 透明のビニール傘を少し傾けると溜まった水滴が流れ落ちた。ポツ、ポツと傘に当たる雨音を聞きながら、俺は高校への道のりを歩いていた。 ふと道路沿いの河原に人影が見えて、思わず立ち止まり、その様子を眺めていると藍色の雨傘を差した人物が、少し茶色く濁った川に白い小さな花束を流した。 それはくるくると向きを変えながら下流へと流れていく。 しゃがんで手を合わせているのが見えて、何となく理解した。立ち上がり、歩道へと戻って来ると俺に気がついた様子で一度傘を上げてこちらを見た。 あどけなさの残る顔立ちをした小柄な男だった。 同じ高校の制服を着ているから後輩だろう。 柔らかそうに伸びた髪先が雨に濡れていた。 彼は少し気まずそうに、軽く会釈をすると足早に前を歩いて行った。 俺はもう一度河原に目をやる。 「あ……」 もう一人の男と目が合った。 紺青色の服を着て、くすんだような灰色の髪に色白な肌。こんな降りしきる雨の中、傘も差さず俺を見上げて驚いたように目を離さない。 俺は左手の時計をちらりと見て、時間に少し余裕があることを確認すると彼の方へ降りて行った。 彼は動かず、じっと俺が来るのを待っている。 「それ、あんたの?」 そう声をかけると、彼は左手に持った白い花束に目をやった。 そして、俺の顔をもう一度見ると片方の口角を上げて白い歯を見せて笑った。
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