梅雨時の朝に

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「え、視えてんの?」 男は嬉しそうに身を乗り出した。 俺は黙って頷く。 「わぁ〜、嬉しい。え〜、何で?」 「俺、神社の息子だし。たぶん、あんたと同じ部類を祀ってるから…だから視える」 男は俺の周りをぐるぐると興味深そうに回り始めた。 そして腕時計と一緒に付けている水晶のついた白糸と金糸のミサンガに気がつくと、しゃがみ込んでまじまじと見ている。 このミサンガはうちの神社「白龍(はくりゅう)(みこと)神社」に代々受け継がれてきたもので、祖父と父、そして長男の俺の三世代が身に付けている。 「へぇ〜、龍神を祀ってるのか。なるほど」 「よいしょ」と言いながら立ち上がると、人懐っこい笑顔を見せた。 「俺は蒼龍(そうりゅう)。お前は?」 「浅葱(あさぎ)白磁(はくじ)だ」 「ハクジか。いいね、カッコいいじゃん」 蒼龍と名乗るこの男は、おそらくこの川を守る主なのだろう。人間と変わらない姿で見た目が若いのは、ここで命が尽きた時の姿のまま、守り神になったと思われる。 誰でも守り神になれるのかは分からないが、幽霊とは違う気配を感じた。 「蒼龍、時間だから俺は行く」 興味本位にうっかり話しかけてしまったが、始業時間が迫っていた。ゆっくりしている時間はない。来た道を戻ろうと背を向けると、蒼龍に呼び止められた。 「ハクジ! また…来るか?」 少しだけ寂しそうに見えた表情に、俺は大して考えてもいなかったくせに「あぁ」とだけ言ってその場を去った。同情のような感情が少しだけ湧いたのかもしれない。 歩道へ戻った時、そっと河原を見たが、もう彼の姿は見えなかった。 雨は変わらぬリズムで降り注ぐ。俺は歩道にできた水溜りを弾きながら学校へと急いだ。
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