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昇降口で閉じた傘の雨粒を払っていると、隣りから視線を感じて顔を向けた。
「おはよ、白磁くん」
「あぁ、なんだ、茜か」
朱色の雨傘を畳みながら、話しかけてきたのは従姉妹の蘇芳茜だった。俺の父親の妹の娘で、同じ高校の一年だ。年下ではあるが、少し気だるそうに話す妙な大人っぽさは母親譲りな気がする。
「白磁くんさぁ…雨降らせるのやめてくんない? 髪が落ち着かないんだけど」
顎で揃えた真っ直ぐな黒髪を梳かしながら、昔から周りに「雨男」と呼ばれる俺に理不尽なクレームをつけてきた。
「お前は自称、晴れ女じゃなかったっけ? そっちこそ、どうにかしろ」
俺は三年の下駄箱へと移動し、教室への階段を登る手前で、茜に今朝の話をしてみようと立ち止まった。
「…ん? 何〜?」
急ぐ様子もなく茜は俺に向かって歩いてくる。
周りの生徒は少し急ぎ足に教室へと向かっていく。
「今朝、孔雀川で青龍に会ったぞ」
「え? そうなんだ? どんなだった?」
普通は「何それ」とか「何言ってるの?」という反応をするところだが、茜も「視える」タチなので、こういう話題に驚くことがない。
むしろ彼女はアイドルや芸能人より、こういった類に興味があるようだ。
「俺らと変わらない年の見た目の男で…陽気な感じだった」
「へぇ〜、イケメン?」
「あ〜…まぁ、そうだな」
茜は分かりやすくニタついて、階段に足をかけた俺の袖をツンっと引っ張った。
「白磁くん、そいつ紹介してよ」
「……お前さぁ」
「合コンじゃないんだから」と言いかけたところでチャイムが鳴り始めた。
「後で連絡するから」と、茜は言って教室へ駆けて行った。
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