梅雨時の朝に

4/4
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
止まないかと思っていた雨が、帰る頃にはピタッと止んでいた。まだ雨雲の範囲は多いが、西の空からは光が差し込んでいた。 「…ねぇ、白磁くん」 「うん?」 「…いないじゃん! 青龍!」 おそらく雨が止んだせいだろう、蒼龍は姿を現さなかった。悔しがる茜をなだめつつ、河原から歩道へと移動した。 「あーぁ、会いたかったな~。通い詰めちゃおうかな〜」 孔雀川に来るまではテンションが異様に高かった茜だが、今はいつもの気だるさを取り戻していた。 「晴れ女だから会えないのかもな?」 目を見開いて驚きの表情を一瞬すると、また伏し目がちに前を向いた。 俺は軽く笑って、少し先を歩く一人の生徒に目線を合わせた。 「あ…」 見覚えのあるシルエットと西日に明るく染まった髪を見て、その生徒が今朝河原で会った人物だと認識した。 俺の目線を追った茜がしばし彼を見た後、俺に顔を向けた。 「空汰くんと知り合い?」 彼を知っていた事に驚いて振り向くと、改めて彼の名前を教えてくれた。 「千草(ちぐさ)空汰(こうた)くん。同じクラスだけど…何かあった?」 「そうか…。いや、彼を孔雀川で見たんだ。白い花を川に流していた…」 茜は「ふーん…」とだけ返して、その後は黙って、傘の先端をつま先で蹴りながら歩いていた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!