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兄と弟
――数日後、茜からメッセージが届いた。
『今日さ、駅前のファミレスで待ってるから絶対来て〜』
唐突な呼び出しではあるが、彼女の性格をよく知る俺はすんなり「分かった」と送った。
***
ファミレスの受付で出迎えた店員に「待ち合わせです」と伝えて、奥の席へと向かい、高々と片手を上げて俺を待つ茜のもとへ行った。
「待たせたな、なんで今日…」
俺が向かいの席に座ろうとした瞬間、茜の隣りにもう一人いることに気がついた。
――千草空汰が、そこにいた。
「あ…れ…? なんで?」
彼の顔を見たまま停止してしまう。
千草空汰は隣りの茜を気にしながら、戸惑うように俺に小さくお辞儀をした。
茜は獲物を連れてきた猫のように「ふふん」といった表情で俺を見る。
「空汰くん、こちら従兄弟の白磁くん」
それだけの紹介をして、茜はメニュー表をめくり始めた。お互いに改めて名前を言い合うと、その後はただただ気まずい雰囲気のまま、茜の様子を見るしかなかった。
「え? 何…? 喋んないの?」
視線を感じた茜がヘラッとした口調で俺達を交互に見た。昨日俺が彼を気にした様子を見せたのは確かだが…まさかこんなセッティングをされるとは思わなかった。茜を知ったつもりでいた事を反省した。
「悪いね、こいつ変な奴でしょ」
俺が千草に話かけると、慌てたように胸の前で手を振った。
「いえ! だ、大丈夫です…。あの、この前、孔雀川の河原近くで会った方ですよね…?」
恐る恐る聞いてくる彼を少し可哀想に思った俺は、できるだけ優しく答えた。
「うん、チラッとだけど…河原にいたのが見えて、あんな雨の日にどうしたのかなって思ってた」
どうしたのかの予想は大体ついているが、彼が話せるようなら、黙って聞こうと思った。
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