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「主!!」
力を失った少女は、ぐったりと光蘭の胸に倒れてしまう。
「コウ、わたしはどうすればいいの?かあちゃんがいないなら、いっそ……」
死んでしまおうか――
少女の心中を察した光蘭は、これ以上言葉を紡がないようにと少女を強く抱きしめた。苦しくなる程に腕の力を強める。小さく儚い少女が何処にも行かないように、一人ぼっちにならないように、強く……。
「こんな風に、母君は貴女を守ったのではありませんか。貴女に生きてほしいから……。今の台詞は母君の意思を無駄にするということですよ」
「かあちゃんの意思……?」
「ええ」
光蘭は静かに頷いた。
「それに、私も貴女に生きていてほしいのです」
少しの沈黙の後、少女は弱々しくもはっきりと言う。
「わたし、かあちゃんの分まで生きる」
「ええ、それで良いのです」
「主、もう一つ言わなくてはいけないことが……」
「どうしたの?」
「主をここに運んだ後、様子を見るために街に戻ったのです。すると……」
「コウ、はっきり言って」
言葉を濁す光蘭に少女は詰め寄る。
「……主は『天女の神隠し』に遭い、命を絶ってしまったと人々が噂をしていたのです」
「天女の神隠し……?」
「私も何故そう噂されているのかわかりませんが、街へ戻るのは控えた方が宜しいかと……」
戻れば人々の混乱を加速させるだけだと思い、光蘭は少女に自分の屋敷に留まるよう勧める。
「わかった。ここにいる」
間髪入れずに少女は答える。
「よろしいのですか?」
「うん、戻っても悲しくなるだけだから……」
少女は光蘭の手を借り、再び布団に横になる。
「コウ、ちょっと休ませて」
「少々話しすぎましたね、ゆっくりとお休みになってください」
光蘭はふわりと少女の頭を撫で、閨を出て行く。
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