イケメン魔王に拾われまして

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イケメン魔王に拾われまして

 ゆっくりと目を開けると、天蓋が見えた。  視界を彷徨わせるとリーリアはベッドの上に寝ていると分かった。 「おや、お目覚めですか」 「っ⁉︎」  白髪に小麦色の肌、翠色の瞳に長い耳の男性は目を覚ましたリーリアの顔を覗き込む。  明らかに人間ではないその風貌に目を見開き慌てて身体を起こそうとするが、激しい頭痛にベッドに逆戻りした。 「まだ起き上がらない方がいいですよ。随分と強く頭を打ちつけておりましたので」  彼は苦笑しながらベッドの横のイスに座る。 「あ、貴方は誰ですか……私をどうするつもりですか」 「警戒するなという方が無理だとは思います。ただ貴女に危害を加えるつもりはありませんので、そこは安心して下って結構ですよ」  リーリアは眉根を寄せ怪訝な表情を浮かべた。 「私はセルジュ様の側近のベルノルトと申します」 「セルジュ、様?」 「あぁ失礼致しました。魔王様の事です」 「‼︎」  魔王の側近だと言われて心臓が跳ねた。 「気絶した貴女をセルジュ様が此方まで運ばれたんですよ」  一体どういう事なのか……魔王が助けてくれたという事なのだろうか……。  理解が全く追いつかない。  敵である自分を魔王自ら運んでくれた……。 (ま、まさか⁉︎ 食べるつもりとかでは……)  魔族の中には人を食すものもいると聞いた事がある。他にも玩具の様に扱い嬲り殺す事もあるとか……。 「っ‼︎」  リーリアは危機感を覚え逃げるべく今度こそ跳ね起きた。  まだ頭は痛むが、そんな事を言っている場合じゃない!  ベッドから降り扉へと向かうがーー。  ふにゅ……何かを踏んだ。 「痛ってえ‼︎」 「え⁉︎ す、すみません‼︎」  咄嗟に謝り足を退けると、それはフサフサと尻尾を振り此方を睨んだ。 「お、狼……?」  中型犬程の大きさで、美しい銀色の毛並みと金色の瞳の獣は欠伸をする。 「そんな所で寝ている貴方が悪いのではありませんか」 「仕方ねえだろう、眠かったんだから」  ブツブツと文句を言いながらリーリアを品定めする様にしてジロジロと見てくる。 「喋ってる……」 「彼は狼族(ヴォルク)ですから」  狼族(ヴォルク)……狼と人間の外見を合わせ持つ生き物、所謂獣人だ。  書物で読み知識はあるが、実際に見るのは初めてだ。 「ルボルだ」  だがどう見てもただの狼にしか見えない。  それに先程は突然過ぎて怖いと感じたが、よく見ると丸くつぶらな瞳とフサフサの毛並みで可愛いかも知れない。   「人間の嬢ちゃん。逃げた所で無駄だ。此処は魔界のど真ん中なんだ。城から出たら一瞬で()られるぞ?」 「っ……」  その言葉にリーリアは諦めて大人しくベッドへと戻り身を縮こませて端に座ると俯いた。  確かに城までの道中、様々な魔物に遭遇した。その時は勇者達がいてくれたからどうにかなったが、リーリア一人では到底敵わない。  それに先程は、食べられる事への目先の恐怖から反射的に逃げだそうとしたが、よくよく考えれば勇者達にも見捨てられた今仮に逃げきれたとしても帰る場所など何処にもない。   「ルボル、貴方の所為で泣いてしまいましたよ。女性を泣かせるなんて最低です」 「は? 何で俺の所為なんだよ⁉︎」 「私が、無能なのがいけないんです……。だから勇者様にも見捨てられてしまうんです……」  これまでリーリアの扱いはお世辞にも良くはなかったが、まさか置き去りにされるとは思いもしなかった。 「私も見ていましたが、あれは酷かったですね。あんな人が勇者とは世も末です」 「……」 「宜しければ、どうしてあの様になったのか経緯を教えて頂けませんか?」  リーリアはゆっくりと顔を上げて二人を見ると、真剣な表情を浮かべていた。その様子から揶揄われている訳ではないと分かり、口を開いた。 「私の名前はリーリア・メルシェと申します。私は聖女として勇者様や仲間と共に、魔王を倒すべく旅をして来ました……」  リーリアは聖女として勇者達と共に旅をしていたが、その立場は決して良くはなかった。  勇者達から何も出来ない無能と呼ばれ、戦闘には参加させて貰えずリーリアの役割は専ら炊事や雑用だった。 「貴女が本当に聖女ならば、寧ろ頼りにされる立場にあるのではないですか?」  ベルノルトが疑問に思うのは当然だ。  戦闘するにあたり聖女は要とも呼べる。まして相手は魔族だ。その価値は火を見るよりも明らかだ。普通ならば、だが。   「私は……勇者様のタイプではなかったんです」 「……は?」  勇者は無類の女好きだった。だが誰でもいい訳ではないらしく、その好みはハッキリしていた。 『ボンきゅんボンじゃない女は女じゃないんだよ‼︎』  旅に同行していた剣士も魔法使いも僧侶も全員女性であり、一様に勇者好みのボンきゅんボンだった。 『本当、ハズレだった。聖女っていうから超可愛くて胸も尻もいい感じの女を期待してたのにさ。顔は地味だし、胸も尻も小さいくて幼児体型だし最悪だよな』  顔は兎も角、体型は普通だと思っていたので少しショックだった。  だがまあ、男性から見たら胸は小ぶりなのかも知れない……。 「私は、その、ご覧の通りなので……」 『俺が必要なのは、戦闘で疲れた心や身体を癒してくれる女なんだよ! 頭も悪いし力も大した事なしい、これなら犬の方がまだ役に立つ。だがまあ、そうだな。俺は優しいから見捨てはしないでやる。丁度雑用係が欲しいと思っていたし、お前は黙って飯でも作ってろ』  戦闘の時は足手纏いだと何時も後に追いやられた。勇者曰く「戦いは花形なんだ。お前には相応しくない!」との事。  仲間には魔法使いも僧侶もいて、正直リーリアは不要な存在だった。それでも勇者がリーリアを仲間に迎え入れたのは「聖女」の肩書きを持つ仲間が欲しかったからだ。人々の平和の象徴とされている聖女が……。    それからリーリアは荷物持ちや火の番、炊事をこなした。そして事あるごとに「無能、役立たず、ブス」と罵られ、他の三人からも散々こき使われ蔑まれていた。  辛くなかった訳ではないが、どの道神殿にいても居場所はなかったので今更帰る事も出来なかった。 「可哀想だな、おい……。流石に酷過ぎるだろう! 本当にそいつは勇者なのかよ⁉︎」  それまで黙って聞いていたルボルが怒りながら吠えた。  ベルノルトも号泣しながら(嘘泣きだと思われる)リーリアに同情してくれる。 「成る程、それならあの奇行は納得がいきます。ご苦労なさったんですね」 「いえ、私が役立たずなのがいけないので……」  敵である筈の彼等から同情されるなど妙な気分だ。 「そうだ! どうせ彼奴等は逃げて行ったんだ、嬢ちゃんを此処に置いてやってくれよ!」 「それは名案ですね。是非彼女を置いてあげて下さい。如何でしょう? セルジュ様」  一体誰に向かって話しているのかと呆然としていると、扉が開き彼が入って来た。そして鋭い目付きで凝視され、リーリアは固まった。 「貴方が拾ったんですから、最後までちゃんと責任を取るべきだと思いますよ」 「……この城に働かないものは必要ない」  それだけ言うと彼は部屋から出て行ってしまった。 「良かったですね、お許しを頂きましたよ」 「え……」 「要するに、何かお役目があればこの城に留まっても構わないとの事です」  まさかの魔王城で暮らす事になってしまった。
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