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11.竜の首の代用品は何が相応しいか
主君の代わりになる首……最低でも威厳が必要だ。それから当然美しい顔立ちで、傷みの少ない新鮮なものがいい。条件を上げ連ねるが、なかなか丁度いい首は見つからなかった。
アザゼルは失念しているが、新鮮な首は誰かの胴体にくっついているものだ。条件を満たす首を得ようと考えるなら、同族を手にかける必要があった。アクラシエルがそのような残酷さを望むわけがなく、本当に自分の首を渡せばいいと思っているはずだ。
このすれ違いが、思わぬ事態を生み出した。
「そうだ、何も首を渡す必要はありません。奴らは大した魔法も使えないのですから、岩石を首に見立てて……」
降り立った巣穴へ、噴火した横穴から入り込む。崩れた壁の一部をいくつか選び、どれに魔法を掛けるか考え始めた。
「ただの石を抱えて運ぶ勇者は笑えますが、さすがに主君の首の代わりとなれば……変な物で代用できませんね」
抱えて行ったものの、使用しなかったサファイアを眺める。ぴったりの大きさ、美しさ、重さ……これならアクラシエル様に無礼になりません。
うんうんと頷き、爪で形を整えた。削り落とした欠片を、小竜達が拾う。光る物が好きなのは、ドラゴンの特性だ。本能と言っても過言ではなかった。金銀財宝を貯める伝説も、ここから来たのだろう。
実際、人が精製した黄金目当てに、王国を滅ぼして叱られた竜もいた。滅ぼしたものは仕方ないとして、罰は一万年の謹慎だった。奪った黄金の上にうっとり寝そべり、彼はご機嫌で謹慎期間を過ごしたと聞く。
アザゼルは人の手が入った物を好まない。光っていても、黄金は集めようとしなかった。山から掘り出す宝石や水晶の方が、よほど好きだ。そんな彼の元で暮らす小竜も、自然と宝石好きになった。
削った屑でも、小竜の手のひらサイズはある。大喜びで拾い上げては、己の巣穴に運んだ。基本、ドラゴンは同族の巣穴に手を出さない。盗まれる心配をするのは、人族や魔族が来たときくらいなのだ。
「魔族が面会に来ています」
「どの魔族ですか」
「立派なツノが二本生えた種族です」
首を傾げるアザゼルへ、小竜が会うよう促す。名乗らない魔族の知り合い……誰でしょうか。唸りながら横穴から首を突き出す。黒竜の立派な鱗が月光で煌めいた。
「おや、魔王の……片腕でしたか」
「お久しぶりでございます。バアルと申します。我が主君より、お詫びとお手伝いの申し出をお伝えせよと命を受けました」
「遅いですが受け取りましょう」
魔王の手伝いがあれば、小竜達より物事が早く進む。魔族は狡猾で、人族を上手に利用してきた。そうだ! これも頼んでしまおう。
アザゼルは手にした大きなサファイアを転がした。
「アクラシエル竜王陛下の望みを伝えます。これで買えるだけチョコレートとやらを用意しなさい」
無言で頭を下げた魔族は、吸血種のようだ。赤い瞳を瞬かせた後、大きく首を傾げた。目の前に転がるのは、竜の首に見立てた大きさ……つまり、魔族の身長の三倍近いサファイアだ。
「大変失礼ながら、その足元の一欠片で十分すぎる量が買えるかと」
「……そんなに安いのですか?」
驚いたアザゼルは、言われるまま踏みつけた屑石を三つほど渡した。人族と大差ないバアルの手のひらに、親指の爪ほどの宝石がきらりと光る。
魔王の命令通り、ドラゴンに恭順の意を示した。しばらく魔族はドラゴンに従うことになる。バアルはチョコレートを買いに宝石を握って飛んだ。
ごろごろと収まりの悪い三つのサファイアは、かなり高額で売れるだろう。人族の貨幣価値に興味のないドラゴンの、思わぬ命令にバアルは口元を緩めた。
もし最初のサファイアを持ち込んだら、偽物だと思われて相手にされないだろう。チョコレートを買ったとして、お釣りが出せない。取引不成立になる光景を想像してしまったのだ。くくっと喉で笑い、大きな都市でチョコレートを買い占めるため、人族のフリで潜入した。
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