12.その程度では復讐に足りない

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12.その程度では復讐に足りない

 サファイアを頭部に見立てようとしたところ、アクラシエル様の側近の一人であるベレトが止めに入った。一匹の小竜に「暴挙を止めてください」と呼ばれたのだ。 「アザゼル、冷静になれ」 「冷静に? 我が君の首を落とされ、どうやれば落ち着けるのですか。あの方の望みを叶えるのが、今の私の使命です」 「言いたいことはわかる。命令遂行の邪魔はしない。だが……それはサファイアだぞ」 「そうですね」 「我が君の身代わりとしては格が低い。それに人族にとっては宝なのではないか? 敵に財を渡すのは本末顛倒だろう」 「……確かに」  鮮やかな緑鱗のベレトは、淡々と諭した。敵には重い石を運ばせればいい。それも溶岩石の中から、一番重い物を選ぶ。嫌がらせとして、運搬の苦労ぐらいは背負わせようと。 「わかりました。そうします」  アクラシエル絡みだと暴走する傾向が強いものの、アザゼルは元々賢い部類に入る。頭が冷えれば、ベレトの説得も受け入れる。大きなサファイアを巣穴に戻し、これからの相談を始めた。 「おう! ここにいたのか。新しい神の神託が降りたぞ」  飛び込んできたのは、青い鱗のナベルスだった。水竜や氷竜を纏める彼は、よくアクラシエルの補佐を行っていた。顔見知りのドラゴンを迎え入れ、アザゼルは首を傾げる。 「新しい神、ですか?」 「ああ、あの女神は降格になったらしい。捕獲されて、どこかへ修行に出された」 「……なんて甘い」  引き裂いて、ボロ雑巾のように人族の前に転がしてやろうと思っていたのに。憎しみを込めて呟くアザゼルの声に、黒い霊力が渦巻く。呪詛一歩手前だった。 「呪うのは後にしてくれ。神託はこうだ。人族は半分まで減らしてよし。ドラゴンの復讐を認める、だとさ」  どうだ! なぜか得意げに胸を張るナベルスだが、アザゼルは顔を引き攣らせた。とばっちりを避けるため、ベレトは体を丸める。そこへ、溶岩を尻尾で叩いたアザゼルの怒りが降り注いだ。  熱いマグマに、ベレトは溜め息を吐く。危なかった。背中の鱗以外で受けたら、焦げるところだ。さらに数歩下がり、己の身で小竜達を保護した。 「我が主君の首が、たったの人族半分? そんなことあるわけないでしょう! 全滅させても足りないというのに、その新しい神をここに出しなさい。私が話をします!!」  叫んだアザゼルの興奮度に合わせ、火山が噴く。溶岩を飛ばし、マグマを流し、山肌を高熱で染め上げた。  この興奮が分かっているから、新しい神は神託を預けたのか。直接、アザゼルに話すのは危険だと判断したんだろうな。ナベルスはじりじりと後退する。入って来た横穴から外へ出ると、翼を広げてさっさと逃げ出した。  派手に噴火して形が変わる山から、連なる山脈にも噴火が連鎖し始めた。あちこちで噴く赤い灼熱の怒りを眺めながら、ナベルスは眉尻を下げる。 「これは陛下がいないと収まらないな」  山の形が大きく変形し、冷えて固まるまでに陛下を見つけなくては。すでにアザゼルが竜王を発見したと知らないナベルスは、方向を海に定めて飛び去った。 「落ち着け、アザゼル。我が君に言いつけるぞ」  育て親アクラシエルに弱いアザゼルを、ベレトは上手に操る。彼は竜王生存を、アザゼル経由で聞いていた。  近いうちに、訪ねてみるか。アザゼルを大人しくさせる魔法の言葉を使いながら、何の姿がいいか考える。人族の都にいてもおかしくないもの……鳥なら自然だろう。  ベレトはアザゼルを宥め、首代わりの岩の選定に付き合う。なんだかんだ、世話焼きの緑竜であった。
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