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13.治しに行って骨を折った
アクラシエルは霊力で治癒を行うわけにいかず、困り果てていた。アザゼルが早く戻ってきてくれないと、対策が打てないではないか。用事を言いつけたことを忘れ、窓の外を見つめる。
気分は憂鬱だった。というのも、チョコレートが貰えなくなったのだ。ありとあらゆる店のチョコレートを、在庫ごと買い占めた商人がいたらしい。運搬も手配して持ち去られたチョコレートは、次の入荷まで半年近くかかるのだとか。
定期的に入ってくるチョコレートは、富裕層から順番に予約されてしまい……出遅れた父が肩を落としていた。残念だが諦めよう。まさかアザゼルではあるまいな? そう疑ったアクラシエルだが、すぐに違うと気づいた。
アイツが買い占めたなら、大喜びでここに積み上げる。持って帰るわけがないのだ。窓枠に顎を乗せ、大きく溜め息を吐いたところで……奇妙な鳥を見つけた。
緑の羽に赤い飾り、目の色は茶色だろうか。どこかで見た色の組み合わせだ。じっと見つめるアクラシエルの口から「ベレト?」と呟きが漏れる。
「ああ、やっぱり我が君でしたか」
窓枠まで飛んできて、ふりふりと尾羽を揺らすのは、地竜でありまとめ役でもあるベレトだった。アザゼルが寄越したのかと尋ねれば、大きく首を横に振る。
「いえ、居場所は聞きましたが……我が君、アザゼルが暴走気味なので早く戻ってください」
「その前に、この体をシエルに返さねばならん。そのために母君の足も治したいのだが……」
これ以上、この体で霊力を使うとシエルが死んでしまう。かいつまんで事情を説明した。ふむふむと頷く緑の鳥、何やら話しかける幼子……侍女達は少し距離を置いて微笑ましく見守る。
幼子が小鳥や動物に話しかける姿は、珍しくない。危険がなければ見守る父モーリスの教育方針のお陰で、邪魔をされることはなかった。
「地竜なら治せるだろう。任せていいか?」
「もちろん、我が君の仰せのままに」
ひょいっと腕に乗ったベレトだが、自由に重さを操る彼らしからぬ失態をした。軽減が甘かったのだ。人族の幼子がどれほど脆いのか、理解していなかったのが敗因だ。ぼきっといい音がして、骨が折れた……。
「いたぁ! なんで?!」
竜王は滅多にケガをしない。首を落とされた時も、すとんと切れたので痛みはあまり感じなかった。人族や魔族の魔法攻撃も防ぐし、物理攻撃はなお効かない。そのため、痛みに非常に弱かった。
強すぎるが故の欠点だ。折れた腕で涙を流す主君に、慌てて飛び退く側近。外から見れば鳥の重さに腕を折った幼子なのだが……慌てた侍女達が医師を呼びに走り、騒動は大きくなった。
「っ……治療はあとだ……逃げろ、ベレト」
「はっ! 承知いたしました」
言われるまま窓の外へ逃げ、庭の大木の葉に隠れる。同系色なので溶け込んで、見えなくなった。心配しながら窓の内側で治療を受ける主君を見守る。
「あっ、あのまま俺が治療したら良かったのでは?」
今さら気づいても遅い。今後は我が君に近づくだけで、追い払われそうだ。色を変えるか、種族を変えるか。ベレトは次の潜入の作戦を練り始めた。普通に医師のふりをして訪問すればいいのだが、彼が気づく様子はなかった。
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