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VIII
夏休み、ある日の秋葉原パソコン・パーツショップ『Lark』。
いつものように英未知子は、このお店で夏休みのあいだは月野和彦になるべく健康にいいように、栄養学的な基礎をふまえてお弁当を作り、月野に渡すことにしていた──もちろん秋葉原の美味しい名店へ行くこともあるが──。
「おい、ラーメン王子、お姫様が来たぞ!」
と、月野がパソコンについて弟子のように勉強させてもらっている先輩格の店員がからかった。
あいかわらず、未知子はなにかというとすぐ顔が真っ赤になる、ポーカー・フェイスとはまったく縁のない人間だった。細かいパソコンのパーツの棚をすり抜けるように、未知子は月野に今日のお弁当を渡す。月野が、いつもありがとう、と受け取りながら言うのを待たず、未知子は月野に訊く。
「書泉ブックタワーに、資格の本ってあるかしら?」
「パソコンというかITというか、マイクロソフトオフィススペシャリストの本ならいっぱいあるだろうけど、他はどうだろう……?」
「あ、とりあえずスペシャリストの本だけでも見て、わかりやすいのがあれば買って帰るつもり」
そか、頑張って! と月野、未知子も月野に午後からも頑張ってね、と。
マイクロソフトオフィススペシャリスト関連の本ならいくらでも書泉ブックタワーに売られていた。平積みにされている、『超超かんたん! 誰にでもなれるマイクロソフトオフィススペシャリスト!』という本をとりあえず買い、今度はラノベの階で二冊ラノベを買って帰路についた。
ネットでも未知子はいろいろ調べていた。
あと数日で登校日が来る。さすがにこれからの人生をそんな短時間で決めないと未来がない、そんなことはないだろうが、未知子のなかでは、食品、栄養、料理、このあたりが彼女の頭を支配していた。
「そうなると栄養士になるのかな……」
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