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☆
「お待たせしました」
書店のレジで精算を済ませた僕は、文庫本の表紙やあらすじを眺める佐賀先輩に声をかけた。顔を上げた佐賀先輩の表情が明るくなる。
「早いじゃん。もういいの?」
「ええ。じゃあ、行きましょうか」
と、書店を出ながら、僕は話す。
「どこに?」
「書店の近くにもフロアマップ、ありますよね」
「うん」
「もう一度、試してもいいですか?」
「それはいいけど、なんで……?」
あ。と、佐賀先輩が口を開ける。気づいたかもしれない。だが、佐賀先輩はその考えを否定するだろう。僕たちは無言になる。少し歩くと、すぐにフロアマップを見つけることができた。ここからだ。
「佐賀先輩……?」
「あ、ああ。うん。能力、使わないとね」
人目を気にしつつ、サイダーを取り出し、佐賀先輩は能力を行使する。炭酸水はフロアマップの「現在地」に移動して、停止した。
「あ……」
「やっぱり、そうか」
「五宝。これってさ」
「佐賀先輩」
「は、はい!」
緊張した様子の佐賀先輩を見て、一瞬、僕は微笑んだ。まさか佐賀先輩にここまでの感情を持つとは。今まで散々、わがままに付き合わされた。佐賀先輩と過ごした、依頼者を通じての宝探し。その時間を失くしたくないと感じる自分がいることは確かだ。けれど、佐賀先輩への好意まであったとは思わなかった。恥ずかしくて否定したいくらいだ。が、能力で証明してしまった以上、否定することはできない。
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