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「どうやら僕にとっての宝物は、佐賀先輩みたいです」
佐賀先輩は耳を赤くしていた。こうやってみると、可愛く見えないこともない。うん。可愛い。
「でも、五宝。わたしたち、もうじき離れ離れになるよ。だから……」
ごめんなさい。と、言うつもりなのだろうか。それでも構わない。別に、絶対に付き合いたいとか、そういうわけではないのだから。そもそも佐賀先輩の気持ちもある。これは僕のエゴだ。
「佐賀先輩は、僕のことどう思っていますか?」
「わたしは」
口を閉じる佐賀先輩だったが、やがて笑って見せた。
「一緒にいて、一番楽しい後輩だった。能力じゃなくて、わたしを見てくれていて、嬉しかった」
だから、と佐賀先輩は言葉を紡ぐ。声は震えていて、悲しそうだ。
「離れ離れになって、五宝の気持ちがだんだん失くなっていくのが、嫌かな。忘れられたくない、なんて」
あはは、と作り笑いを見せる佐賀先輩。僕は佐賀先輩の目を見て、力強く話す。
「絶対、失くしません。この宝物は」
「本当に?」
僕は頷く。すると、不意に佐賀先輩の唇が僕の頬に触れた。何も言えずにいると、佐賀先輩は笑った。
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