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「次は~」
目的地が近づいてきた。次の停留所をアナウンスする女性の声が、バス内に響き渡る。止まるためにボタンを押そうとしたら、先に誰かが押したのだろう。ボタンが光る。膝の上に置いていた鞄を、確かめるように掴む。目的地のショッピングモール前に着き、僕は席を立つ。隣に座っていたおばあさんも降りるらしく、「すみません。降ります」などと言わなくて済んで少しほっとした。
料金をICカードで支払い、バスを降りる。暖房が効いていたからか、ほんのりと肌寒い三月の空気が出迎えた。日差しもあり、寒いとは思わない。が、これから気温が上がり、虫が湧いて出るのかと思うと、げんなりした。
「あ。おーい、五宝(ごほう)」
栗色のコートを着た女子が僕に手を振る。佐賀先輩だ。私服姿だと高校生に見えないな。大人びて見える。
「おはようございます」
「おはよー。はあ。休日出勤とか、どこの社畜だよって感じだよね」
わざとらしく、大きなため息を吐く佐賀先輩。いや、あなたのせいですからね。
「佐賀先輩がごねたからじゃないですか。ショッピングモールに行くなら土日がいいって」
「だって、わたしの【能力】でも、見つけるまでにどれくらい時間かかるかわからなかったし? 夜、出歩きたくない」
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