0人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、そうですね」
「すまん。待たせた」
野太い男子の声。今回の依頼者である吉良先輩が小走りで僕らの方へ近づいていた。体格は良いが右腕にギプスをしているからか、走る姿はどこかぎこちない。
「おはよう、吉良くん」
「おはようございます、吉良先輩」
「おう。二人とはあまり話さないから、ちょっと緊張するな」
あはは、と快活に笑う吉良先輩を見て、僕らも笑ってみせる。が、僕の笑みはぎこちなかったかもしれない。普段、笑わないから。接客業は無理だろうな、と、無数にある将来の一つを内心で潰した。
「じゃあ、行くか」
「あ。ちょっと待って。そこ、自販機あるから」
と、佐賀先輩が自販機へと歩き出す。白いポーチから財布を取り出していた。
「なんで自販機?」
ああ。吉良先輩からしたら意味がわからないか。僕は簡単に説明する。
「能力に必要なんですよ。炭酸系の飲料水が」
「へえ。にしてもすごいよな。佐賀の能力は」
「そうですね」
宝物を発見する。それが佐賀先輩の能力だ。オカルト染みているが、佐賀先輩の能力は本物。もっとも、能力の使い道はそれほどないから、佐賀先輩が小さい頃にテレビでもてはやされたくらいで、世間の認知も薄い。
「お待たせ~」
サイダーのペットボトルを手に持つ佐賀先輩が、僕らの方へ戻ってくる。それじゃあ、早いところ、片付けるか。
「それでは改めて、行きましょうか。吉良先輩の宝物を探しに」
最初のコメントを投稿しよう!